KDDIは、au携帯電話の春モデルとして全12機種を発表した。「生活に溶け込むケータイ」(小野寺正社長)を目指し、auの「4つの強み」(同)にさらに力を入れた携帯だという。
小野寺社長はここ最近、「ユビキタス社会」から「アンビエント社会」という言葉を提唱している。ここでいうユビキタスとは、「いつでも、どこでも、誰でもICTの恩恵を受けられる社会」だとされ、ユーザーが必要に応じて携帯を使うプル型のサービスとして、KDDIでも携帯インフラの整備、サービス提供などを続けてきた。
アンビエント社会では、「いまだけ、ここだけ、あなただけ」と表現され、ユーザーが意識しなくても安全・安心・快適な生活をICTが実現してくれるというプッシュ型のサービスとされる。この中で「通信事業者に求められるのはユーザーの利用シーンを創造して提案すること」(同)だとする。
同社のコンシューマ事業統括本部長・高橋誠取締役執行役員常務によれば、そうしたスタンスで開発されたサービスが、昨年末にテレビ朝日、朝日新聞社と発表した情報配信サービスだという。これはニュース配信の「EZニュースフラッシュ」を拡張するようなサービスで、ユーザーに新たな「気づき」「きっかけ」を提供するサービスとされている。
ほかにも、今回は会見で触れられなかったが、"「感性型」エージェントインターフェイス"としてユーザーの利用履歴などに応じて情報を提供するサービスを開発中で、こうしたサービスも想定していると思われる。
これまでも同社では、音楽やスポーツとau携帯電話を組み合わせる形で新しい携帯の使い方を提案してきた、と小野寺社長。使い方の提案だけでなく、端末や販売チャネルなど、ユーザーの利用シーンを創造するためには「総合的に物作りに取り組むことが重要」だと小野寺社長は強調する。
総合的な物作りの中に「プラスアルファのエッセンスを採り入れたい」と小野寺社長は話すとともに、「auらしさを大切にする」(同)ことも重要だという。それが「今まで築き上げてきたauのブランド価値」(同)だ。
小野寺社長はそのブランド価値を「イノベーティブ」「デザイン」「ユーザビリティ」「買いやすさ、選びやすさ」の4点に分類する。
柔軟な発想と粘り強い工夫などで常に新しいことに挑戦する、外観デザインだけでなく快適に使いこなせるライフスタイルの提案、徹底したユーザー目線で生活の質も高める、分かりやすく納得してもらえる料金体系や多様化するニーズに応える選択肢――といった「4つの価値が(auの)強み」(同)だという。
この4つの価値をさらに強化するラインナップをそろえたと小野寺社長は自信を示す。小野寺社長は、世界規模の景気後退で消費動向や企業業績にも大きな影響が出ており、携帯業界も販売方法の変更に加え、景気の影響によって販売台数減という影響が出ていると指摘。これに対応するために、「お客様視点に立ち、そのニーズにスピーディに対応していく」(同)ことを目指す。
この春のラインナップを第1弾として、小野寺社長は「auらしさを回復する1年にしたい」と意気込みを語った。
こうした意気込みで用意されたラインナップは全部で12機種。昨年の秋冬モデル12機種と合わせ、24機種が現行機種という形になる。
同社が以前から力を入れる音楽ケータイでは、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズから「Walkman Phone, Premier3」を投入。秋冬モデルでは音楽に特化し、機能はシンプルで小型の「Walkman Phone, Xmini」を発売したが、「(シンプルな機能では)物足りないというニーズがある」(高橋氏)ことから、「最強のエンタテインメントプレイヤー」(同)としてPremier3をリリースする。
さらに、「世界初」(同)という3D対応の携帯「Woooケータイ H001」も用意。開発元の日立製作所は、以前から携帯向けの3Dディスプレイを開発してきたが、今回、これを実用化。人間の左右の目の視差による錯覚を利用して画面を3Dに見せることで、裸眼でも画像が飛び出す立体表示を可能にした。視差バリアをするため、横の解像度が半分になるが、3D対応コンテンツだけでなく、自分で撮った写真や動画、ワンセグ映像などもほぼリアルタイムに3D化することができる。
テレビ業界でも今後は3Dが大きなテーマとなりそうだが、高橋氏も「3Dは1つのキーフレーズになる」として、今後KDDIとして3Dコンテンツに「チャレンジしていきたい」(同)と意気込んでいる。
さらに、「ベルトのついたケータイ NS01」「ケースのようなケータイ NS02」という独特の名前の付いた「New Standard」モデル2機種も用意。auのデザインへのこだわりを示した機種で、「長く使うことへのこだわり」(同)を体現した。
機能自体はシンプルでも、使っていて飽きのこない、「機能ばっかりを追いかけるのではなく、デザインにこだわって長く使ってもらう」(同)ための端末だ。これまでも同社では、au Design Projectとしてデザインに注力した端末を発売してきたが、これは「とんがった、最先端をいっているデザイン」(長島孝志コンシューマ商品企画本部長)を目指したもので、New Standardは「デザインのすばらしさを主張するものではなく、手にしっくりなじむものを目指した」(同)ということで、これまでのデザイン中心の端末とは考え方が違うそうだ。
このNew Standard2モデルは、「できるだけ安い価格で多くの人に買ってもらいたい」(同)として、価格は抑える意向だ。
KDDIは、昨年は新規契約数が伸び悩み、昨年後半にはMNP(携帯電話番号ポータビリティ制度)で転出の方が多くなるなど停滞気味だ。小野寺社長は「ビジネスに勝ったり負けたりは当たり前」と冷静で、今回のラインナップでは「当然、勝ちに行くのを目指している」と強調している。