コンテンツ事業者を支援するプラットフォーム「Eos」
Ciscoは家電分野の攻略にあたって、いくつかのビジョンを持っている。その最たるものが「Device Centric (デバイス中心)」から「Network Centric (ネットワーク中心)」への転換だ。デバイス同士がネットワークで接続されることで、コンテンツはデバイスの縛りから解放され、デバイスがそのコンテンツに触れるためのフロントエンドとなる。「Network as a Platform」を標榜する同社ならではの考えだが、実際にネットワーク家電の時代はこうした傾向が強まるだろう。
また、デバイス同士が接続されることでコミュニケーションの手段も変化する。SNSはWeb 2.0の代表的な技術/サービスの1つだが、今後は音声/ビデオなど、コミュニケーションもよりリッチなものが増えてくる。ネットワークのインテリジェント化も重要だ。これまでのインターネットでは、ユーザーや検索エンジンなどを介して目的のコンテンツを探し出すのが一般的だったが、今後はコンテンツや広告自身が適切なユーザーやニーズを探し出して自ら歩み寄ってくることになるかもしれない。こうしたコミュニケーションの多様化やデバイス中心志向からの解放は、新聞やTVといった既存メディアにとっては脅威という意見もある。だが、こうした技術の活用は既存メディアにとって逆にチャンスとなるというのがCiscoの意見だ。
こうしたなか、CES 2009に合わせてCiscoが発表したのが「Cisco Media Hub」「Cisco Wireless Home Audio」の2製品と、エンターテインメント業界向けの新プラットフォーム「Cisco Eos」だ。Media Hubは前述のNetwork Centricのアイデアを体現するもので、さまざまな種類のデバイスからメディアサーバに保管(または管理)されているコンテンツの再生を可能にする。Wireless Home Audioは無線LAN接続のスピーカーだが、やはりこのアイデアの延長にあり、どこでもコンテンツを再生する「Any Play」を補完するものとなる。
CiscoがCES 2009で発表した「Cisco Media Hub」「Cisco Wireless Home Audio」という2つのデバイス製品とエンターテインメント事業者向けプラットフォームの「Cisco Eos」 |
ここでの注目はCisco Eosだ。同社のネットワークOS「IOS」と名称が似ているため、「Entertainment OS」という新OSかと思ってしまうが、実際にはOSというよりプラットフォームに近い。音楽やビデオなどのコンテンツを持つエンターテインメント事業者が、Webサイトを通してアーティストや作品をユーザーにアピールしていくためのツールをセットにした一種のサービスだ。Chambers氏はEosについて「プロモーションを支援するツール」と表現している。Eosは事業者が抱えるアーティストのサイト構築のほか、コンテンツ群の管理を可能にする。また、SNSでのファンとの交流ツールなど、アーティストをプロデュースするための仕掛けも充実している。一方的にコンテンツをユーザーに発信するのではなく、あくまでプロデュースという視点に立ってアピールしていく点がポイントだ。既存メディアが新しい方向性を模索する際のヒントとなるかもしれない。