バカCG作品にも関わる
――同時期に『あかるい世界』というバカCGのギャグ作品にも、関わられていますよね。この作品は『ALTOVISION』とまったく違う意味で凄い作品でした。とにかくくだらなかったのですが……。
タナカ「先ほどお話したように、技術の進歩でCGという工学的に高度な事が個人で出来るようになった。それで、本来はCGで何かを表現するなんて考えられなかったような人にも、表現の機会が出来たんです(笑)。絵が描けなかったら、普通は漫画家をあきらめるじゃないですか。でも、今はそれが出来るんですよ(笑)。ヘンな事考える奴が、ハイスペックな表現をやったらどうなるか。これはそんな作品ですね」
――タナカさんは全ての声を担当されていますが、他にはどのようなかかわり方をされたのですか?
タナカ「CGが面白いので、無駄なアドバイスをしたんです(笑)。この作品の監督の菅原そうた君は、無造作にどんどん作るので、それに音声を付けたという感じですね。これも商品化されるというのは驚きですよ(笑)。菅原君は本当に無駄でバカな事をするのが好きなんです(笑)。ラジオ体操の映像をフルCGで描くとか、そんな意味ない事を喜んでやるんですよ!」
――これからのタナカさんは、どういった表現をしていくのでしょうか?
タナカ「自分でこう表現したいというよりは、環境次第ですね。マンガに関しても、マンガがつまらないというよりは、マンガ産業のシステムがつまらないんです。でも、マンガ表現は大好きなんです。紙と鉛筆があれば、何でも出来てしまうという部分が。だからPCで何でも出来るという、最近の映像表現は好きです。要するに、僕は環境ありきなんです。今回も高画質で楽しめるという出力環境があるから『ALTOVISION』が出来た。僕の場合は"これがやりたい"と言うよりも、環境があれば表現できるんです」
――最後に、クリエイターを目指す若い世代にひと言お願いします。
タナカ「僕は40歳なんですけど10代、20代の頃は自己表現の欲求が凄いありました。でも閉ざされた世界だった。ほとんど自分の表現を世に問う手段がなかったんです。でも、今はツールでも、出力する環境でも、いくらでも手段がある。ただ、やるだけでいいんです。とにかく、やればいいんですよ。今の若い人の環境が羨ましいです。僕の場合はマンガを描いても、まずは出版社の編集者に認められなければ世に出す事が出来なかった。今の時代はただ書いてwebで公開すれば、世界中に発信できる。羨ましいですよ。ただ表現すればいいんです」
撮影:中田浩資