インドの最先端美術にふれる事ができる展覧会『チャロー! インディア : インド美術の新時代』展が、森美術館(東京・六本木)において、同館開館5周年記念展として開催されている。会期は3月15日まで。「チャロー! インディア」の"チャロー"とは、ヒンディ語で"行こう"を表す言葉で、「チャロー! インディア」はすなわち「行こう! インドへ」を意味している。私たちが知らない、いまのインド美術への扉が開かれている。

エントランス

カーヴァド : 旅する聖堂(家)/グラームモハンマド・シェイク

同展開幕の直後の11月末にインド西部の都市・ムンバイで同時テロが起き、多くの犠牲者が出るという悲報が届いた。外務省は、テロに関与していた可能性が報じられている隣国パキスタンとの国境に接したカシミール地方での退避勧告を発しており、同国は厳しい情勢にある。日本人が抱くインドのイメージは、悠久の歴史と大地、信仰の国といった平和なものだが、今回のテロで、あらためて中東という危険な地域に接する国として、政情不安に晒される可能性がある事を知った方も多い事だろう。

そうした政治・社会情勢とはまた別に、90年代からの急速な経済発展やグローバル化、都市化による経済大国という側面も大いに知られるところだろう。安価な労働力ながら最先端の技術力を持つ事から、世界中から発注を受け、"ITのインド"として発展してきてる。しかし、ここに至っては、国内より国外に目を向けてきた国内企業の盛衰が激しく、外資系企業の脅威に晒されている。こうした世界経済の恩恵が受けられるインド国民はわずかなエリートだけであり、大半は貧困に喘いでおり、格差社会は我が国の比ではないのがインドの経済事情の本来の姿だ。

このように政治、経済ともに国外からの影響に晒され、1947年以来、独立の父・ガンディーの元、一枚岩に見えたかにあったインドが、多民族、多言語国家としての実にさまざまな思想や信条がうごめいており、ここに来て再びカオスという言葉がうまくはまって見えているのがインドの現代社会と言えそうだ。

こうしたインド国内の情勢を色濃く投影しているのが、現在のインド美術だ。「チャロー!インディア」展でインド美術に出会う事で、インドの人々が何を思い、何を考えているかの一端に触れる事ができるのである。これは闇雲にインドを旅する以上に、いまのインドに知るよい機会かもしれない。私たちが知らない最先端のインド美術にふれ、作品を通じて現在のインドを旅する事ができる、それが本展である。いまだからこそ体験しておきたい、アートの旅にチャロー!