「赤い蝋で封してあるボトルのバーボン」。例えバーボンウイスキーに詳しくない人でも、こういえばピンと来るのではないだろうか。日本でもすっかりお馴染みとなった「メーカーズマーク」のことである。ここでは、メーカーズマーク蒸留所のマスター・ディスティラー(蒸留最高責任者)であるケビン・スミスさんを迎えて開かれたセミナーの様子をお届けしよう。
「メーカーズマーク」は昨年、節目の年を迎えていた。ブランド誕生から50年、明治屋が日本への輸入を開始してから25年だったのだ。アメリカ・ケンタッキー州にあるメーカーズマークの蒸留所は、現在創業しているバーボン蒸留所では最も古く、アメリカの国定史跡にも指定されている。「バーボンウイスキーは機会づくりではなく、人間により少量を手づくりすべき」というポリシーを創業以来守り続けているのだ。
ライ麦の代わりに冬小麦を
多くのバーボンは、法律で定められているようにトウモロコシの比率が51%で、ここにライ麦や大麦麦芽を加えて原料としている。だが「メーカーズマーク」は、ライ麦の代わりに冬小麦を使用。本来のバーボンウイスキーの特徴である「ワイルドでピリッとした刺激」ではなく、「マイルドで口当たりがやさしくコクのある味わい」に仕上がっている。こういった原料からできあがった「メーカーズマーク」はカクテルにも応用しやすく、「今ニューヨークで最も人気のあるバーボン」とスミスさんは胸を張る。
メーカーズマーク蒸留所のマスター・ディスティラー(蒸留最高責任者)のケビン・スミスさん |
セミナーでは、テイスティングも行われた。今回用意されたのは以下のは6種類(1~4まではメーカーズマーク)。
- 樽熟成1日
- 樽熟成2年
- 樽熟成完了(通常商品化されているもの)
- 樽熟成9年
- 「I.W.ハーパー」
- 「ジャックダニエル」
テイスティングで用意された6種のバーボン |
1に関しては色は無色、ケビンさんが「ケンタッキー焼酎」と表したが、言いえて妙である。鼻にツンと刺し舌の中央からサイドにかけて刺激が走る。もちろん樽の香りは皆無で、イーストや少し梨のニュアンスもあった。
2は若干樽の色が付き、薄いウーロン茶といった具合。ピリピリ感は少しあるが、樽香がついて随分とマイルド。焼きりんごやバニラの香りも。
3は実際に商品として売られているもので、樽熟成は6年。色は2とさして変わらないが、味わいはかなりまろやかでスムーズ。舌の上で転がしてもピリピリ感はない。この頃合を見計らうのもディスティラーの仕事である。
4は見た目にもわかるほど樽の色がつき、濃い紅茶のよう。香りはクレームブリュレのような甘さだが、口に含むとプリンのカラメルだけを舐めているかのようなほろ苦さも感じる。
5はバーボン本来の原料であるコーン・ライ麦・麦芽でできている。ほどよい熟成で口当たりはまったりとしているが、ライ麦由来からか若干の荒々しさを感じた。
6も原料は「I.W.ハーパー」と同じ。面白いのは炭でろ過した後、樽熟させているところ。そのせいか、総じてライトな印象。まだツンとした要素も残っている感じ。「同じバーボンでも、同じ商品でもこれだけの違いがでてくるのか」と思うと、なかなか興味深いテイスティングであった。