スパコン能力を引き出すためのチームを設立
次世代スーパーコンピュータ(スパコン)の開発と並行して、グランドチャレンジに選定したアプリケーションの開発が進められている。その1つであるバイオアプリの開発拠点である理化学研究所(理研)は、2008年12月25日、26日の両日にバイオスーパーコンピューティングシンポジウム(BSCS) 2008を開催し、バイオアプリケーションの開発状況を発表した。
バイオの対象である人体は、ナノメートル以下の分子レベルの振る舞いから、メートル級の人体まで9桁以上のサイズの範囲がある。分子レベルでは量子力学的な計算が必要となるが、人体全体を量子力学的モデルで解くことはいくらコンピュータが進歩しても追いつかないし、また、その必要もない。ということで、アプリケーションの研究開発は、分子スケール、細胞スケール、そして臓器全身スケールという3つチームで行われている。
それに加えて、タンパク質や遺伝子のデータベースには、すでに膨大なデータが蓄積されており、さらにデータ蓄積のスピードは向上している。このような大量のデータから意味のある結論を引き出すためのデータ解析融合研究チーム、アプリケーション開発チームを支援して、スパコンハードウェアの能力をフルに引き出し高性能化を目的とする生命体基盤ソフトウェア開発・高度化チームが設けられている。
また、2008年10月には、その重要性に鑑み、脳・神経系研究開発チームが設けられ、全部で6研究開発チームという体勢で開発が進められている。
薬剤耐性の解析
横浜市立大学(横浜市大)の木寺教授をリーダーとする分子スケール研究開発チームは、もっとも詳細な電子を単位とする量子科学計算から、分子を単位とする分子動力学計算、そして8粒子を1つにまとめる程度の粗視化シミュレーションまでを開発する。
分子スケールチームは、次期スパコンが稼動を開始する時点までに実現する短期目標として膜タンパク・代謝酵素を選択し、ガン細胞などが薬剤を排出してしまい薬に対する耐性ができてしまう主因である多剤排出トランスポータ「AcrB」の解析に挑んでいる。通常、タンパク質と薬剤の関係は1対1であるが、このAcrBは多種の薬剤を排出することができる点がやっかいであり、動作メカニズムを理解して排出されない薬剤を作ることができれば、耐性のできないガン治療薬ができることになる。
分子スケールチームは、もっとも詳細に電子と原子核レベルの力を解析する量子力学的計算を行うProteinDFプログラムの次世代スパコンに向けた並列化や、分子レベルの静電力ベースの分子動力学計算プログラムの開発により、共通ターゲットである多剤排出トランスポータAcrB解析を行った。そして、さらに大きな系を扱うため、分子動力学計算での8粒子を1つにまとめる程度の粗視化を行うCafeMolという統合粗視化シミュレータの開発を進め、各種分子モータや多剤排出トランスポータAcrB解析を行っている。
分子モータはATPなどの化学エネルギーを運動のエネルギーに変換し、細胞内での物質の移動を行っている。この図の双頭キネシンは微小管にそって移動するリニアモータであるが、通常のモータのように回転する分子モータも存在する。