モーターマガジン社はこのほど、『日本の鉄道絶景 撮影ガイド』(1,995円)を発売した。全国のJR鉄道路線の景勝地を網羅し、豊富な写真に地図データを添えた。著者の真島満秀写真事務所は鉄道写真の名門で、マイコミジャーナルの連載企画『プロに学べ! 鉄道写真の撮り方』のコーナーでお馴染み。同書はタイトルに"撮影ガイド"とあるけれど、撮り鉄だけではなく、乗り鉄も楽しめる一冊だ。鉄道模型レイアウト制作の参考にもなりそうだ。というわけで、国内路線踏破率78%の乗り鉄、杉山が紹介させていただく。

撮影は真島満秀写真事務所

『日本の鉄道絶景 撮影ガイド』(1,995円)

A4判の誌面に、大小とりまぜて180点もの写真がある。そのほとんどが、日本の風景をメインに据えた情景写真だ。この作風を観て、どれも列車が小さいな、と思うかもしれない。そう、これが真島満秀さん流の作画術であり、同事務所の作品が鉄道ファンだけではなく、旅行ファンからも支持されている理由だ。真島さんが、JRの『青春18きっぷ』のポスターや、書店で見かける時刻表の表紙を手がけているのも同書を見れば納得できるのではないだろうか。

同書の鉄道写真は「車窓を離れ、鉄道を第三者の視点で観たら、こんなにもすばらしい風景に出会えますよ」というメッセージが盛り込まれている。乗り鉄の車窓を一人称の視点とすれば、撮り鉄の視点は三人称の視点。列車の内側と外側で、こんなにも景色の見え方が違うのか、と新鮮に感じる。

例えば、同書に登場する陸羽西線の見開きは、最上川を見下ろす大パノラマだ。空と川面の青、新緑と深緑が拡がる。「列車は? 」と探すと、右下に白いキハがトコトコと走っている。乗り鉄はここで小さなキハに視点を移し、「これに乗れば、この風景の中に入れるんだ」と想像する。楽しくワクワクさせてくれるひとときだ。

計算しつくされた写真の数々

その他、大糸線や早春の信濃路をスーパーあずさが走る写真も登場する。車体は、雪景色が反射してきらめく。視野を広げれば、北アルプス連峰の雄大な姿に圧倒される。大自然に囲まれた鉄道と沿線の民家の小ささ、そしてたくましさが伝わってくる。雪山の模様の美しさと、中腹にあるスキージャンプ台の造形までもが、この風景のアクセントとなる。計算しつくされたかのように、すべての要素が風景全体を引き立てていた。

私は乗り鉄である。いつも空調の効いた車内に居て、その日が晴れでも雨でも、列車に乗ったことに満足する。しかし撮り鉄さんはたいへんだ。ベストショットを得るために、足と時間を使って撮影地を探し、最適な天候と光線の時間帯を選ぶ。真夏の暑さ、真冬の寒さもかなりのものだろう。そうやって撮り貯めていった作品はどの写真も、時間と苦労の積み重ねの結果である。徐々にその楽しさに夢中になっていき、完成度の高い写真を求めるようになってくるとなおさら大変である。しかし、同書はその苦労を表に出さないところが潔い。読者はただ美しい日本の鉄道風景に見入るばかりである。それがプロの仕事なのだろう。

表紙周り含む全180ページのうち、143ページが作例を兼ねたカラー写真集だ。後半の24ページは、各写真の撮影地地図が簡潔に示される。地図はすべて北を向いており、太陽光線を予測しやすい。説明文は短いが、目標物を的確に記しており役に立つ。撮り鉄にとっては、カラーページの最後にある機材の紹介やアドバイスも参考になる。私が思わずニヤリとした写真がある。それは真島満秀写真事務所所属・猪井カメラマンの取材車の内部だ。詳しくは本書を観ていただくとして、まるでこどもの頃に夢見た秘密基地のようだ。う~ん、なんて奥の深い1冊!