キアヌ・リーブス主演の『地球が静止する日』が12月19日に公開された。本作の監督を務めたスコット・デリクソンに単独インタビューをすることができた。ジャパニーズ・ホラーをはじめ、日本の映画が大好きだというデリクソン監督。日本人のインタビュアーがついて行けないほどのマニアックな話題も飛び出し、濃い15分間となった。
――本作を撮るにあたって気をつけていたことをお聞かせください
スコット・デリクソン監督 : いちばん考えていたのは、自分が見たいものを作りたいということ。それはハリウッドの大作らしく、ノリが良くて、スリルがあって、ドキドキして、SFX(特殊効果)もあるもの。そして、良いストーリーで、キャラクターがリアルであること。そんなとても意義深いアイデアのあるものが作りたいと思っていました」
――主演のキアヌ・リーブスはどんなところが優れた俳優でしたか
デリクソン監督 : 彼はユニークな才能をもっていると思う。それは、やりすぎないで感情を表わす能力があるということ。たぶん、自分の肉体性、身体性を理解していると思います。
『マトリックス』にも出演していましたが、あの映画をバカバカしく見させずに演れるのは、彼しかいません。彼は自分とカメラの関係、体とカメラの関係をよくわかっているから、セリフがあまりなくても、観客をひきつけることができる。セリフは少ないけれども、やっていることはたくさんある。そういうことができる人だと思います。
今回は宇宙からの使者という役だったが、バカバカしく見えず、やりすぎに見えないというのは、彼をおいてほかにはいなかったと思いますね」
――いま『マトリックス』の話が出ましたが、同じSFアクションのヒット作として意識したことはありますか
日本のホラー映画の話になった途端、目の輝きが変わったデリクソン監督。「It's a good question.」には一同大笑い。『ドラゴンボール』など映画化されている日本のコミックも好きだと話していた |
デリクソン監督 : もちろん、『マトリックス』シリーズはすばらしい映画として意識していましたよ。SF映画のベスト5に入る映画です。とくに第一作の『マトリックス』はベスト1なんじゃないかと思います。
ただ、あの映画でのキアヌの才能や演技力などの部分は意識していましたが、そのほかについては考えていませんでした」
――キアヌの相手役・ジェニファー・コネリーはどんな女優でしたか
デリクソン監督 : 「彼女は100%リアルな感情を伝えることができる人。うそ臭くなれない人なんです。この映画のなかには、ファンタジックな要素がたくさんあります。宇宙船がでてきたり、宇宙からの使者が来たり、ロボットが出てきたり。そういうものがある映画なんだけれど、ジェニファーがいたおかげで、地に足をつけるというか、それらにしっかり現実味を与えてくれたと思っています」
――監督は、日本のホラー映画がお好きとお聞きしましたが…
デリクソン監督 : (ハハハと笑いながら)いい質問だね!
日本の映画は全体的に好きなんですが、クロサワ(黒澤明)の作品がいちばん好きですね。Jホラーで言うと、『リング』。あと、ちょっと古いんですが『鬼婆』(※1)。これは古典的なモノクロ映画なんですけど("you know"を連発して、ノリノリになってきた監督)。
※1 『鬼婆』(1964年)
御年96の現役監督、新藤兼人の1964年モノクロ作品。民話を題材として、監督自らがシナリオを執筆した。 南北朝時代、戦乱の世で、女(乙羽信子)は息子の嫁(吉村実子)と暮らしていた。息子が死んだという知らせの後、鬼の面をした敗将と出会い、女は恐ろしいものへと変貌する……
『リング』のような90年代の日本ホラー映画は、アメリカのホラー映画作りに本当に大きな影響を与えたと思っています。そして『リング』は、20代のアメリカ人が評判を聞きつけて見た、という最初で最後の映画です。
ほかにも、いい映画がいっぱいあるんですが、そうだな…。『オーディション』はいいですね。あの映画は本当にすばらしいと思います。あんなにすごい映画は、これから先できないでしょう。後味が悪くって、すごく嫌な感じの映画なんですが(笑)」
※2 『オーディション』(2000年)
『妖怪大戦争』(2005)や『着信アリ』(2004)で知られる三池崇史監督のサイコホラー映画。原作は村上龍の同名小説。再婚相手を映画のオーディション参加者のなかから選ぼうとする中年男性・青山(石橋凌)。ある女性(椎名英姫)を愛したことから、彼は恐ろしい体験をすることに。日本ではさほど話題にならなかったが、海外での評価が高く、第29回ロッテルダム国際映画祭国際批評家連盟賞、同オランダ批評家連盟賞を受賞した
―『地球が静止する日』はとても後味がいいと思いました
デリクソン監督 : それはよかった! 見終わった後に、観客が希望をもてるような映画にしたいと思っていたんです。あまり皮肉っぽいものは作りたくなかったから……。
PROFILE : スコット・デリクソン
南カリフォルニア大学で修士号を取得。脚本家として活動したのち、『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』(2000)で初めて長編映画のメガホンをとる。2005年には実話をもとにしたホラーサスペンス『エミリー・ローズ』を監督し、注目を浴びる。日本映画について造詣が深く、大学で講座を持ったこともあるほど。尊敬している監督は黒澤明
撮影 : 石井健