Appleがイベントから身を引く理由
Appleでは参加取り止めの理由として「インターネットやApple Retail Storeなど、ユーザーへの訴求方法の多様化」を挙げており、必ずしも毎年同じ時期に同じ場所で多くのユーザーを集めて大本営発表を行う必要がなくなったことを強調している。
基調講演のスピーカー役からJobs氏が降りたことは同氏の健康問題にもリンクしている可能性があるが、それ以上にMacWorldからAppleが早々に手を引きたかったという側面が強いと考えられる。Schiller氏がピンチヒッターを引き受けたのも、突然の全面キャンセルでユーザーの期待を裏切りたくないと考えるAppleからのせめてもの対応だったのかもしれない。
AppleがMacWorld撤退を考える理由の1つが金融危機を発端としたコスト削減圧力だ。PCメーカーとして快進撃を続けるAppleとて金融危機の影響とは無縁ではいられない。
小売市場調査を専門とする米NPD Groupの12月16日(現地時間)の発表によれば、11月の米国におけるPC販売額が前年比2%増加する一方で、Macの販売額は1%減とやや低調に進んでいるという。特にデスクトップ型のiMacの販売は35%も落ち込んでおり、新製品が登場したばかりのMacBookらノート型の販売も横ばいの状態となっている。
NPDの分析によれば、HPなどのライバル製品が積極的な値下げに動く一方で、Apple製品の価格は依然として高止まりしているという。これが同社の高い利益率の源泉なのだが、それが競合で"あだ"になっているようだ。トータルの見通しではそれほど悪くないというものの、Appleが不況とは無縁とは言っていられない状況にあるのは間違いないようだ。
MacWorld撤退の理由として考えられるもう1つの理由が製品発表のタイミングだ。かつてのAppleは2つのMacWorldとApple Expoを駆使して、斬新な新製品群を毎年数回にわたって発表していた。ユーザーはイベントの時期が近付くと新製品情報に敏感になり、今度はどういった製品が発表されるのかに注目する。
だがAppleはしだいにイベントのタイミングに合わせて製品発表を行うことが少なくなり、ここ数年は製品発表のタイミングで小規模なスペシャルイベントを同社自身で開催し、報道関係者など参加者も限定したクローズドなスタイルとなっている。こうしたほうが自分で製品の発表時期を調整できるし、小規模なのでコスト的負担も少ないからだ(イベント会場も専用スペースを借りるのではなく、本社講堂などを利用している)。
アルミニウム切り出しの新型MacBookが発表されたスペシャルイベントは、本社講堂のある「4 Infinite Loop」で行われた。こうした細かい製品発表にも頻繁にJobs氏は顔を出しており、適時小規模イベントを開催するほうがAppleにとって都合がいいようだ |
こうしたAppleの動きにみられるように、ここ最近のIT系イベントは大々的にさまざまな人や会社を呼び集めるスタイルから、目的に応じて小規模なイベントをその都度開催するスタイルが増えつつある。あるいはWebキャストなどを駆使して、インターネット上でバーチャルな発表会を行うケースも増えてきた。もともとこうしたイベントやカンファレンスはユーザー交流会の意味合いが強いが、それ以上にユーザー同士のコミュニケーション手法が多様化したことで、現地に集まらずとも常にオンラインで交流できるようになり、イベントの必要性が薄まりつつあるのかもしれない。