クロスプラットフォームIDEを発表

このほか、Qt Softwareではクロスプラットフォーム統合開発環境(IDE)「Qt Creator」の技術プレビュー版を2008年10月に発表している。

軽量のクロスプラットフォームIDEで、これについてSchillings氏は、「実験的なものとして考えている。ソフトウェアの開発効率を向上させるためには、フレームワークを超えて、どのようなツールを使うのか、ということも念頭に入れる必要があった。そのため、既存のツール上になんらかの付加価値を加えられないかと検討した結果、デバッガなどを加えたIDEを提供することを考えた」と語る。

Qtはクロスプラットフォームフレームワークであり、あらゆるプラットフォーム上での開発環境の提供を目指している。「Windowsでアプリケーションのコードを書いて、それをMacでデバッグするのは、違うツールを使う必要があり、開発者にとっては非常にわずらわしい手間がかかっていた」(同)であり、こうした異なるプラットフォームでの手間を省くために開発したものとなる。

ただし、「IDEとしては、Visual StudioやEclipseなどと比べ簡略化されたものであり、決して競合しようというつもりはなく、むしろ特定用途に特化した軽量のIDEとしての提供であり、インテグレーションの提供も行うつもりである。基本的には、より複雑なプロジェクトでの開発には既存のIDEを用いてもらい、シンプルな開発の場合にQt Creatorを使ってもらえれば、と考えている」(同)としており、「Qt Creatorはあくまで実験的なものである」(同)ことを強調する。

こうした実験的な取り組みに関しては、Trolltech時代から1つのポリシーを持って取り組んできたという。それは、Qtに関わるエンジニアは、毎週金曜日は「Creative Friday」と称し、普段の開発プロジェクトから離れ、自分の好きなことを行って良い日としてきたことであり、それにより正式なプロジェクトから離れたリスクを度外視した取り組みができるようになり、Qt Creatorのような新しいイノベーションが生み出されてきたという。

「現在はNokiaへの統合中で忙しく、Creative Fridayだったのが、Creative SaturdayやCreative Sundayになってしまっているのが実情」(同)と冗談とも本気ともつかないことを語るが、「エンジニアとしての思考に対しても、自分が普段取り組んでいることと違うことができるため、良い効果をもたらしていると思う」と、その効果については強調した。

なお、こうした取り組みはQt LabsというQt Softwareの公式サイトで公開されているので、興味のある人は覗いてみると良いだろう。

デバイスを超えたインテグレーションを目指す

Nokiaの1部門となったQt Softwareだが、Qtの将来像としては、「難しい質問」(同)としながらも、Nokiaのユーザーエクスペリエンスを高める方向での開発が主になっていくのではないか、との見方を示した。

また、ツールとしての活用としては、「あらゆるコンシューマ機器は独立した形で設計開発されているが、Qtを使うことでデバイスの垣根を越えてインテグレーションを実現できていければ」(同)とし、特に「日常的なレベルで使用されるデバイスのインテグレーションに向けて使っていってもらえれば」(同)とする。

なお、Nokiaの買収により関与しやすくなった携帯電話への今後の対応については「携帯電話のようなモバイル産業はこれまで分散する形で発展してきたが、最終的には複数のプラットフォームに絞られてきた。我々はSymbianに対し、まず対応を図った。Androidについては、エンジニアも技術も知っており、技術的な問題はないと思っている。後は市場の状況とカスタマからの要求次第だと思っている」(同)とした。