Nokiaがノルウェーのオープンソース企業「Trolltech」を買収したことは既報のとおりで、その買収は2008年6月に完了した。Trolltechは、Linux、UNIX、Windows、Mac OS Xなどさまざまなプラットフォーム上で稼働するアプリケーションの開発が可能なクロスプラットフォームアプリケーションフレームワーク「Qt」を提供してきたが、Nokia買収後、同事業は同社の「Qt Software」事業部へと移管され開発が継続して行われている。
そんなQtの開発の最前線で指揮を執るのが、同事業部Chief Technologist(旧Trolltech CTO)のBenoit Schillings氏である。そんな同氏にQtの現状と、将来について話を聞いた。
複雑なものをシンプルに
QtはC++によるアプリケーション開発フレームワークで、開発者は1度開発したアプリケーションを各OSのコンパイラを通すことでさまざまなOS上で動かすことができるのが特徴。同社はそれを「複雑なものをシンプルに作れること」と評している。
しかも、Qtでは機能ごとのクラスが用意されており、1からすべてのコードを記述するのに比べ、記述するコード量を少なくすることができるため、特に大規模な開発でその効果を発揮するという。
Schillings氏は、「我々を買収したNokiaに限らず、大手のソフトウェアメーカー含め、いかに競争力を保つかは、開発をいかに合理化するかが鍵になる。何しろ、コードの記述に関しては、人1人あたりが時間当たりに書ける分量には限界があるからだ」と、Qtの活用によるアプリケーション開発の効率化を強調する。
Qtの提供形態は商用版とオープンソース版があり、オープンソース版のライセンスはGPLとなっている。「商用版については、GPLを嫌がるカスタマ向け」とのことだそうだ。
オープンソース版ユーザは全世界で数十万人居るといわれており、彼らの手により機能改善やバグの修正が行われ、ソフトウェアとしての向上が図られている。「現在では、オープンソースが大きな力を持つようになってきた。Qtはその初期の頃から関わってきた経緯をもっており、Nokiaは我々を買収することで、オープンソースのコミュニティとの関係を強化できたわけで、自身もオープンな企業になろうという表れを示したこととなる」(同)であり、「オープンソースの環境では、さまざまなインタラクティブ、クリエイティブなものが生み出されている。それが今後の市場での強みとなってくる」(同)とする。
しかし、Qtについては、「Nokiaにだけ提供されるわけではない。現在も他のオープンソースイニシアティブなどにも提供しているし、それは今後も変わらない」(同)とオープンソースでの提供を維持していくことを強調した。