ルーヴル美術館と大日本印刷(DNP)は6日より、「ルーヴル-DNP ミュージアムラボ」第5回展として「ファン・ホーホストラーテン<<部屋履き>> 問い直された観る人の立場」をルーヴル-DNP ミュージアムラボ(品川区西五反田)にて開催する。会期は2009年5月16日まで。

「ファン・ホーホストラーテン<<部屋履き>> 問い直された観る人の立場」は2009年5月16日まで開催される

ファン・ホーホストラーテンはレンブラントに師事し、フェルメールと同じ時代を生きた17世紀オランダ絵画の黄金時代を代表する画家として知られる。今回展示される作品『部屋履き』は、オランダ風俗画の典型的な室内を舞台としながら、人物が描かれていないという極めて珍しい作品。遠近法など様々な絵画技法を駆使し、室内の奥行きや人の気配などを一枚の絵を通して感じさせられる、優れた空間表現を実現している。

ファン・ホーホストラーテン《室内の情景》、もしくは《部屋履き》

1654‐1662年の間

パリ、ルーヴル美術館蔵

(c) 2008 Musee du Louvre / Georges Poncet

ルーヴル-DNP ミュージアムラボは、ルーヴル美術館とDNPによる美術作品の新しい観賞方法を提案する共同プロジェクトとして2006年10月より始まり、今年で5回目。

ルーヴル美術館のエルヴェ・バルバレ副館長が「(同展における)マルチメディアは、アートを理解するツールだ」と指摘するように、ルーヴル美術館所蔵の作品1点を映像やIT技術を活用し、新たな観賞方法を提案する。一般的に、音声ガイダンスに従って数十点に上る絵画作品を眺めながら鑑賞する形式の美術展が日本では馴染み深いが、そうした「観るだけ」の展覧会から「ある1点の作品に向き合い、その作品との対話を深める」という、"観賞の一歩先"をゆく展示手法は、斬新且つ画期的であり、一見の価値があると言えよう。

なかでも特徴的なのが、AR(オーグメンテッドリアリティ:拡張現実感)技術の採用だ。ARとは実写像や映像といった現実情報と、CGなどの仮想情報を組み合わせた、新たな表現効果技術。バーチャルリアリティ(VR)と言葉は似ているものの、現実の理解をどう広げるかという意味において、仮想現実から発生するVRとは概念を異にする。

同展では、ドイツのMetaio社との共同で開発したARルート案内サービスを会場で提供する。スマートフォンやUMPC(ウルトラモバイルパソコン)をガイダンス端末として貸し出し、この端末を各所に設置された、二次元バーコードのような形状の「マーカー」にかざすと、ルーヴル美術館の初代館長、ドミニク=ヴィヴァン・ドノンをモチーフとしたキャラクターが端末画面に表れ、次の観覧場所まで案内してくれる。

マーカーの上に携帯電話をかざすと、画面にルーヴル美術館の初代館長のキャラクターが現れ、ルート案内をしてくれる

展示会場では、実物の作品『部屋履き』を鑑賞できる展示室やオランダ絵画の黄金時代について分かりやすく学べるシアターのほか、情報スペースホワイエとして『部屋履き』の空間を原寸大に拡大した【絵の中に入る】、象徴的な意味合いが含まれるとされるモチーフに焦点を当て、65インチ液晶スクリーンを来館者がタッチすることで、そのモチーフに秘められた意味が分かる【作品の意味を考える】、ファン・ホーホストラーテンの生涯や、彼の視覚実験のなかでもとりわけユニークな遠近箱の模型を再現し、その錯視効果が体験できる【画家と出会う】など、観賞の理解に役立つ情報を提供している。

絵の方に歩み寄ると、部屋に入った際に現れるであろう物のイラストなどが表示され、実際に絵の中に入りこんだかのような感覚を味わうことができる

遠近法の視点や光と影など、絵画における空間表現方法を理解することができる

ホーホストラーテンが制作した遠近箱を模したものも展示される。穴から覗き込んでみると……

その他、マサチューセッツ工科大学メディアラボ副所長の石井裕教授とルーヴル美術館、DNPの3者によって開発された作品情報システムのプロトタイプも展示。画面上に表示された作品の中から気になる作品画像を選ぶと、同じタイプの視覚的特長を持つ作品がグループで表示されるので、作品同士の関連性を認識しながら鑑賞のポイントを学ぶこともできる。

シアターでは、上映される映像番組の音声多言語化も実現

画面にタッチして、絵画を拡大したりすることもできる

同展は、翌年春から国立西洋美術館で開催される「ルーヴル美術館展 17世紀ヨーロッパ絵画」(2009年2月28日~6月14日)との連携も発表している。一味違った観賞手法を体験しに、また翌春のルーヴル展を先取りするという意味においても、一度足を運んでほしい展示会となっている。