グーグルのモバイルビジネス統括部長John Lagerling氏

グーグルで日本およびアジア太平洋地域のモバイルビジネス統括部長を務めるJohn Lagerling氏は、「MCF モバイルコンファレンス 2008(mobidec2008)」における講演で、Googleが目指すモバイルインターネットのサービスを解説した。

Lagerling氏は、日本の携帯電話サービスのレベルは高く、世界をリードしているとするものの、世界的にはモバイルデータ通信はまだ発展途上段階にあると指摘。Lagerling氏は、「世界には30億台の携帯が存在し、ポテンシャルが非常に高い」としつつ、「500社以上のキャリアが世界に存在し、国や会社によって参入条件がバラバラ。OSも違い、実装もハードウェアもバラバラ」と世界の携帯市場を分析し、それがモバイルデータサービスの普及を阻害していると指摘。

さらにLagerling氏は、「PCで育ったうち(Google)のエンジニアは(携帯向けの開発を)いやがる人が多い。制限事項が多いし、すばらしいものを作ってもキャリアがノーと言い宇可能性もあり、端末が変われば同じユーザーエクスペリエンスを提供できない(こともある)」と話す。

それでも、Googleは、PCだけでなく手のひらの上の端末から、いかに効率よく情報を共有するかを考えており、携帯向けにも積極的にサービスを展開している。

Googleの基本はWebアプリで、「Webブラウザで完結できるものはできるだけブラウザの中で提供したい」(Lagerling氏)考え。携帯アプリも提供しているが、Lagerling氏はネットワークの問題などから「今の携帯はアプリの必要性が高い。(あくまでも)今は」(同)と強調する。

日本の携帯ネットの利用目的の第1位は情報検索で、テレビや日常の会話から分からないことがあったときに、PCよりも手軽な携帯を使って調べるというニーズが大きいそうだ。会話をしながらそのまま会話するように検索できたら面白い、という発想から生まれたのが、iPhone向けの音声検索サービスだ。

「音声認識は10年前からあるし、(インターネット)検索はGoogleの前から存在したが、やり方によって使い勝手に差がある」とLagerling氏。この「声で検索」では、一部の言葉が聞き取れなくても、これまでのネット検索で培った経験を元に質問を推測、検索結果を返すため、高速に認識、検索ができるのだという。

またLagerling氏はクラウドコンピューティングに関しても言及。クラウドを可能にするにはネットワークの進化が必要で、すでに3Gが普及し、それ以上の高速化が進む日本では「クラウドが(現時点で)使える」という。ただ、現在の日本では携帯ユーザー、PC向けのインターネットユーザーを分けて考えている傾向があると指摘。サービスプロバイダー側は携帯ユーザーを「切り離してはいけない」(同)。

例えばGoogleの動画共有サービスYouTubeでは、当初は携帯ユーザーがどれだけの機能を望んでいるか分からなかったというが、「だいたいのもの(機能)でいいかというとそんなことはなかった。デスクトップと同じか、それ以上のものを期待されている」(同)ことが分かり、「共通のバックエンドだけでなく、共通のバリューを出すのが必要」(同)という

「ユーザーのニーズは明確」とLagerling氏。PCのインターネットでやっていることを携帯でもやりたい、というもので、携帯側も端末のスペック、ネットワークは進化を続けている。そのため、よりリッチでリアルなインターネット環境を携帯でも実現できるとLagerling氏は主張する。

それを体現するための端末が同社のOS「Android」を搭載した携帯電話だ。Googleが、「開発者として、一番作りやすいものを考えて作った」(同)OSで、初の搭載端末「G1」を米国で発売したHTCは、予測の2倍の速度で売れており、年内で販売台数100万台に達するという予想をしており、これは「iPhoneと同じレベル」(同)だという。

Androidの特徴は、デスクトップと同じレベルのサービスが携帯電話向けにも開発できるという点で、例えばブラウザはPC向けのChromeと同じWebKitッをベースにし、アプリ環境も統一できる。「日本はまだ優れている方で、キャリアごとにアプリが統一されている」とLagerling氏。海外では、同じJava環境でもばらつきが多いのだということで、Androidの同じ環境で開発できるという利点を強調する。

初のAndroid端末「G1」。Googleサービスを搭載しているが、あくまで「Googleフォンではない」とLagerling氏

携帯向けの開発環境のオープン化を実現するのがAndroid

さらに、携帯電話の開発において「7~8割がソフトウェアのコスト」とLagerling氏は話し、開発ツールを含めてOSが無償というAndroidのメリットも挙げる。また、オープンソースとはいえ、ベンダーが開発したものはオープンソースにする必要がない点も特徴で、ミドルウェアベンダーが開発したものの一部をオープンソースとして提供することは期待するものの、強制はしないようだ。

Androidによって、携帯向け開発は専門家だけでなく、PC向けの開発者でも可能になるとLagerling氏。Googleの提供するGoogleマップなどとのマッシュアップしたアプリの開発もできる点も特徴だという。

Googleのサービスを使ったマッシュアップも豊富なAndroidのアプリやサービス

Lagerling氏は、「技術が進化したからといって複雑になる必要はない」という。これは、UUIや操作性の工夫によって複雑な機能をより簡単に使ってもらえるようなものにするということで、Androidについて「ユーザーにもっと近いものが作れるといいと期待している」と話している。

10年前と比べ、サービスは進化したが、UIは大きく変わらないGoogleのページを例に、技術の進化を目立たせない必要性を説くLagerling氏