パネリストらはまず、Gabriel氏が課題とした音楽業界のビジネスモデルについて意見を交わした。問題の違法ダウンロードは、英国などでISPが警告する動きが見られ、減少の方向に向かいはじめた。だが、それが即、売り上げ増に結びつく保証はない。

デジタル音楽の開拓で、欧州各地を訪れ地元企業と提携を進めているというSony MusicのHenderson氏は、「デジタルが今後数年で収益の半分を占めるようになる」と見る。現在、同社のデジタル比率は、米国では30%、欧州では10%程度だが、急ピッチで伸びているとのことだ。だが、それはCDなどの物理媒体の消滅を意味するわけではない。「物理製品が欲しいユーザーは必ず残る」とHenderson氏。同社は現在、物理媒体を利用したプレミアム製品の可能性を開拓しているという。

MySpaceのKantrowitz氏は、「新しい技術はオーディエンスを拡大させた」と述べ、ライブ音楽市場の成長を例に挙げる。レコメンデーションやフィルタリングなどの新技術は、音楽ビジネスにさらなる影響を与えると期待しているようだ。Kantrowitz氏はまた、新しいビジネスモデルとして広告モデルにも触れる。「広告主が音楽に注目している」とKantrowitz氏。コンテンツと広告をつなげ、PCとモバイルに対応したプラットフォームが大きなビジネスになると見る。MySpaceは数週間前に米国で楽曲を無料でフルストリーミングできる「MySpace Music」をスタートしたばかりだ。

デジタルの将来に手放しで楽観していないのは、The FilterのSemple氏だ。「既存アーティストは、無料のデジタルコンテンツをプロモーションに活用し、プレミアム版のCDやライブチケットの販売で収益を得ることができる。だが、新しいアーティストには難しい時代だ」とSemple氏。違法ダウンロードの減少により「最悪の時代は終わった」というSemple氏だが、新人アーティストには課題が残ると見る。

ミュージシャンのKreusch氏は、

  1. 技術がどのような可能性を提供するのか
  2. デジタルにおける著作権の問題解決
  3. 選択肢がほしいというユーザーの心理を理解する

を課題とする。Kreusch氏は、「2012年にはデジタルが音楽収益の50%を占めるだろう」と予言する。

米RealNetworksのCEO、Rob Glaser氏はETRE初日の基調講演で、「CDの売上げは減少しているが、音楽離れではない」と述べた。音楽バンドはツアーなど他の収益源があるが、「レコードレーベルは音楽ビジネスの中心ではなくなった」とGlaser氏は述べている。ではレコード会社は今後どうなるのだろうか。MySpaceのようなSNSが新しい"レーベル"となるのか?

「レーベルは必要」というのはもちろん、Sony MusicのHenderson氏だ。レコード会社は配信経路とプロモーション能力を持ち、グローバルなスターはレコードレーベルなしには登場・存続が難しいとHenderson氏は続ける。MySpaceのKantrowitz氏もこれに同意する。「MySpaceはレーベルではない。レコード会社の役割はさまざまで、音楽が民主化したからといってその役割はなくならない」(Kantrowitz氏)。Henderson氏はまた、オンラインでの自分たちのビジネスは、IP、コンテンツのライセンスというビジネスになるとも続ける。

具体的にはどのようなビジネスモデルが考えられるのだろうか。Sony MusicのHenderson氏は、

  1. MP3フォーマットでの提供
  2. 製品とのバンドル
  3. 広告付きの音楽サービス

の3つのトレンドを挙げる。2はNokiaと英Sony Ericssonが携帯電話に、ISPがブロードバンドサービスに、音楽ダウンロードサービスをバンドルするという動きだ。3はMySpace、スウェーデンのSportifyなどのサービスが生まれている。

「この3つが意味することは、消費者に選択肢が必要ということ。エンタテインメントはそもそも選択肢のビジネス」とHenderson氏は続ける。

2について、Kreusch氏は、「Nokiaの"Comes With Music"発表は業界を驚かせたが、ユーザーにエクスペリエンスを提供するのが狙い。ユーザーにまず体験してもらおうという点で業界が一致できれば、大きな収益に変えていけるのではないか」と提案する。

MySpaceのKantrowitz氏も、「ユーザーのコントロールは大切」と同意する。製品開発が進んだ結果、この数年で「合法オンライン音楽の奨励は大きな成果が出ている」と評価する。