インターネットはこれまでの我々の生活やビジネスを変えたが、音楽はインターネットの登場により打撃を受けた業界の1つだ。P-to-Pファイル共有サービス「Napster」以来、若者を中心とした違法ダウンロードの利用によりCDの売上げは減少、レコード会社やアーティストは模索を続けてきた。

音楽は今後、インターネットとどのように付き合っていくのか? スウェーデン・ストックホルムで開催された技術と投資のカンファレンス「ETRE 08」では音楽の将来をテーマとしたラウンドテーブルが開かれ、レコードレーベルをはじめとした音楽とハイテク企業の関係者が話し合った。パネリストはみな、終始一貫して音楽業界の未来に楽観していた。その内容をレポートする。

ラウンドテーブルに参加したのは、Sony Music EntertainmentでEMEA地区デジタルビジネス開発担当副社長のIan Henderson氏、音楽フィルタリング/リコメンドサービスの英The Filterの最高マーケティング責任者、Andy Semple氏、米MySpace(Fox Interactive Media傘下)で国際部門エンターテイメント担当上級副社長のJamie Kantrowitz氏、それにコンテンツ配信事業の独MusicJustMusicの創業者兼CEOでピアニストのCornelius Claudio Kreusch氏の4人。

左から、独MusicJustMusicの創業者兼CEOでピアニストのCornelius Claudio Kreusch氏、米MySpace(Fox Interactive Media傘下)で国際部門エンターテイメント担当上級副社長のJamie Kantrowitz氏、Sony Music EntertainmentでEMEA地区デジタルビジネス開発担当副社長のIan Henderson氏、英The Filterの最高マーケティング責任者 Andy Semple氏

冒頭、ビデオで登場したのは、ミュージシャンのPeter Gabriel氏だ。Gabriel氏は、英国のロックバンドGenesisなどミュージシャンとしての経歴に加え、オンデマンド音楽配信プラットフォーム企業、英OnDemand Distribution(OD2、後に米Loudeye(現在、フィンランドNokia)が買収)を共同で立ち上げるなど、技術やビジネスなど多方面で活躍している人物だ。Gabriel氏はThe Filterにも出資している。

Gabriel氏は現在を、「1960年代を思わせるエキサイティングな時代。さまざまなアイディアが出てきて、創造性(クリエイティビティ)が爆発している」と表現する。「技術のイノベーションは音楽をはじめとしたコンテンツの本質を変える」というGabriel氏は、インターネットとデジタル技術の登場に期待を寄せながらも、ビジネスモデルという課題も指摘する。

これまで音楽を入手する方法は、レコードショップにいって物理媒体(CD)を購入するのがほとんどだったが、現在はさまざまな手段がある。「音楽制作側にある程度のパワーが残ることを望む」とGabriel氏。「アーティストは生き残り策を探っている状態だ。芸術作品を作っている人に報酬は必要。アーティストは、自分の作品をコントロールする権利があるべきだ」。

Gabriel氏は、ユーザーが自分の払いたい額を払ってダウンロード/プレミアムボックスに入ったCDという手法で最新作を提供したRadioheadを例にとり、「無料のデジタルコンテンツと有料コンテンツの共存は可能」と述べる。「(作品の)価値に影響を与えないギブアウェイもありかもしれない」とGabriel氏。

Gabriel氏は最後に「創造性のルネッサンス(再生)を待っている」と音楽の将来に期待を寄せた。