首都高速道路の工事現場にレールが
都会の地下深く、小さな機関車らしきものに出会った場所は、東急田園都市線池尻大橋駅近く、深さ50m付近の地下トンネルだった。そこは首都高速道路の中央環状新宿線と建設中の大橋ジャンクションを結ぶ渡り線「大橋シールドトンネル」の掘削工事現場。その工事中のトンネルには、美しい孤を描くレールが敷かれているじゃないか。さらにそこをトロッコ列車が走っているじゃないか! その機関車に近寄ってみると、メーカー名らしい名前が小さく記されていた。「トモエ電機工業株式会社」とある。現場を観察したあと、この会社に問い合わせてみると、意外な事実を知ることに……。
地上とつながる立抗(右部分)から資材を搬入し、トンネル内を横方向へ運搬するためにサーボロコ(6t、12t、15t)が使用される。トロッコ列車はトンネルの表面の一部となる「セグメント」などを運搬するという |
この池尻大橋駅付近のトンネル工事現場の上には、東急田園都市線(地下)、国道246号(地上)、首都高速3号渋谷線(高架)が走っている。首都高速道路の資料「SJ11工区SJ13工区トンネル工事 大橋シールド」を見ると、シールドマシンが進んだあとのトンネル内には、6トン、12トン、15トン級のサーボロコ(機関車)が往来し、トンネル建設資材を運搬する概要図が描かれている。ひとつのトンネルを作業の便宜上、上下2エリアに分けて、その両フロアでサーボロコが活躍しているのがわかる。
都会の地下で働くトロッコ機関車の正体は
出会ったトロッコ列車は、1両の貨車(資材運搬台車)を連結し待機していた。森林鉄道のディーゼルロコと違い、この機関車は電気で動くらしく、「バッテリーロコの取扱いについて……」という注意書きが記されていた。密閉空間で排気ガスを出さないクリーンな車両だ。工事用軌道なので、国土交通省が定める「鉄道」ではなく、機関車も「鉄道車両」ではない。あくまで工事用の軌道で、その上を走る工事用車両と呼ぶようだ。
これが大橋シールドトンネルで働くトモエ電機工業製の「サーボロコ」。トンネル表面はすでにセグメントと呼ばれるパーツが装着された状態にある。この画像を撮影中、下段部分を6t機関車がシールドマシン側へ向けて轟音とともに走り去っていった。見事に見逃し三振 |
機関車の側面に記されたトモエ電機工業という名の会社に問い合わせてみると、同社・望月氏が意外にもサラサラと教えてくれた。まず、「サーボロコ」は同社の登録商標で、一般的にはバッテリーカーと呼ぶ。勾配や貨車の重さなどの負荷に左右されないサーボモーターを採用した機関車で、一定の指令速度で安定した走りを実現できるという。いわゆる坂道発進のさいも、坂下側にずり落ちずにスムーズに発進できるという機能も持つ。この大橋シールドトンネルも、田園都市線などをくぐるために、大きなアップダウンがあるから、勾配途中での停止・発進を繰り返す作業のためには必要な機能だろう。
トモエ電機工業の多彩なラインナップのなかの1台、「3300型」。レールゲージ(レール幅)は762mと914 mmに対応。モータ出力45kW×2台。定格速度7.5km/h。用途は「大断面シールド、山岳トンネル用。高摩擦車輪装着車。15t車で牽引力最大」と同社ホームページに |
トモエ電機工業をもっと知りたい!
こうしたバッテリーロコを製作しているトモエ電機工業は、東京都品川区に本社を構える、工事用バッテリー機関車・無人搬送システムの専門メーカー。サーボロコなどの「建機車輌」、ゴルフ場内のモノレールや鉄道基地で働く車両牽引車などの「産業車輌」、蓄電池設備などの「産業電機」の3つを柱とした商品群を展開しているという。御殿場にほど近い、富士山ふもとに大きな工場を備える。望月氏は「現在、日本国内におけるバッテリーロコ専門メーカーは弊社のみで、特に日本国内の都市土木、地下鉄や地下道路、地下河川、共同溝、上下水道などの現場では、ほとんどウチのものじゃないかな」とこれまたサラリと話す。
さらに望月氏は、「現在、関東エリアでは100台以上のトモエ電気工業製バッテリーロコが稼働中で、このうち、東京圏では40から50台が活躍している」とも。東京の地下や鉄道基地などの片隅で、小さなトモエ製の機関車たちがあちこちで働いているらしい。まさに東京の明日を担う縁の下の力持ち。ちなみに首都高大橋ジャンクション工事現場で出会ったロコは15t機関車と判明。価格は「1台約4,000万円前後。年間60台ほどが生産され、150台ほどが整備に入ってくる」(同氏)という。
トモエ電機工業への興味は尽きない。「ぜひ工場も見に来て」という言葉は社交辞令か、それとも鵜呑みにしていそいそとカメラ片手に潜入できるか……!? 工場突撃続報レポートを期待しないで待っていてほしい。