全世界で1,300銘柄もあるという海外ETF。日本では楽天証券の場合、その一部の約80銘柄が現在購入可能だが、全世界に投資する、ある地域に投資する、1国に投資する、株式以外の投資対象に投資する、あるテーマに投資する……など様々な選択肢から選ぶことができる。初めて海外投資をする場合、すでに海外への投資をしている場合など、具体的にどんな銘柄を選ぶとよいか、楽天証券・外国株式部長 新井党さんにお話をうかがった。
――現在、約80の海外ETFを取り扱っていらっしゃるということですが、どんな銘柄が人気なんでしょうか?
「大体TOP4は決まっています。まずわかりやすいのが、アメリカを代表するインデックス指数『S&P500』に投資するETF『アイシェアーズ S&P500インデックスファンド』(IVV)です。これはアメリカの株式全体に投資したいという人が利用すると便利です。日本では、アメリカの株式指数としてダウ工業株30種平均というインデックスが有名ですが、アメリカではS&P500のほうが一般的ですし、銘柄数も多いので、もし、アメリカに投資したい人はこれをオススメします。
売買高の人気海外ETFトップ5
ただ、海外の株式に投資したいというのであれば、今や、アメリカだけに投資するのは、リスク分散の面で心配です。投資地域として、大きく『先進国』なのか『新興国』なのかという分類を考えてもいいかもしれません。今回の金融危機では、すべての株式市場が大きく崩れましたが、先進国と新興国では値動きが違うことも多くあります。また、安心と買う『先進国』、成長を買う『新興国』ともいえます。そういうわけで、売上上位には、いつも新興国全体に投資するインデックス『MSCI EMERGING』に投資するETF『アイシェアーズ MSCIエマージングマーケット』(EEM)が入っています。この指数は、新興国25カ国を対象に投資したものですから、たとえば、中国、インドなどもこの中に含まれています。やはりたとえ、中国やインドであっても、1国に投資するのはリスクが伴います。しかし、25カ国の新興国に投資するとなれば、1国だとありうる政治的リスクなども回避でき、成長を買うという一挙両得を得られます」
――MSCIエマージングが新興国とすると、先進国のインデックスではどんなものがオススメですか?
「そうですね、売上上位にも必ず顔を出しているのが、『MSCI EAFE』と「MSCI KOKUSAI』です。両方聞きなれないインデックスかもしれませんが、投資のプロ機関投資家の間では、非常によく使われているインデックスです。実は、MSCI EAFE(『アイシェアーズ MSCI EAFEインデックス ファンド』(EFA))はアメリカとカナダをのぞく先進国21カ国に投資している指数です。どうしてこんな指数があるかというと、これは、北米の投資家が外国投資をする際に利用しているんです。同じようにMSCI KOKUSAI(『アイシェアーズ MSCI コクサイインデックス』(TOK))は、日本を除く先進22カ国に投資しています。これは、日本の投資家が外国投資をする際に利用しているというわけです。私たち日本人が海外に投資したいと思ったら、MSCI コクサイを利用すればいいわけです。ただ、楽天証券で海外ETFを購入なさるお客さまのなかでは、MSCI EAFEも人気なんです。既に投資信託などの形で米国株式とお持ちの人には便利なんだと思います」
――海外ETFには、私たちが知らなかったインデックスファンドがたくさんラインナップされているのですね。ほかには、どんなインデックスファンドがあるのですか?
「株式以外にも、債券のインデックスもたくさんあります。リーマン・ブラザーズ社が算出していた「米国総合インデックス」(『アイシェアーズ債券総合ファンド』(AGG))は運用業界の中でも広く利用されている指数です。ある程度格付けの高い米国債券で全体に投資するインデックッスですから、ポートフォリオ上は、今、日本でも人気の外債ファンドと同じ役割を果たすと考えればいいでしょう。
今回の金融危機でも、ほかの投資対象と値動きが違ったため注目を集めたのが原油、天然ガスといったエネルギー、金や貴金属などの各種商品、いわゆる『コモディティ』と呼ばれる投資対象です。楽天証券で取り扱っている海外ETFにも、コモディティ指数の代表銘柄である「S&P GSCI(ゴールドマンサックスコモディティ指数)に連動する海外ETF(『アイシェアーズ GSCIコモディティ インデックスド トラスト』(GSG))があります。S&P GSCI商品指数は、原油や貴金属、小麦などの26の商品先物で構成されており、商品市況全般の動きと同等の投資成果を期待することができます」
――このほかにも、たとえば、新興国であれば、ラテンアメリカ、台湾、韓国、ブラジル、南アフリカなど、地域や国に投資する海外ETFがたくさんあって、どれを選ぶか迷ってしまいますが。
「その気持ちはわかります。そこでわれわれは、自分の資産のポートフォリオにうまく海外ETFを利用していく考え方として、『コア・サテライト戦略』を提言しています。これは、ポートフォリオを攻めと守りに明確に分散して効率的に運用していこうという考え方です。
コア・ポートフォリオというのは、『守りのポートフォリオ』となります。1度投資したら、あとは自動操縦というか、お任せで長期運用して自分の資産づくりのコアにしていくという役割の資産です。ですから、銘柄選びとしては、(1)低リスク(2)低コスト(3)分散化、などがキーワードになります。たとえば、日本株式の代表的なインデックス指数であるTOPIX連動型の国内ETFと先ほど紹介したMSCIコクサイ指数に連動した海外ETFを持てば、これで先進国全体に投資したのと同じ運用になります。
これに対して、サテライト・ポートフォリオというのは、『攻めのポートフォリオ』になります。コア・ポートフォリオでカバーする以外のプラスαを追求するポートフォリオになりますから、(1)特別なセグメントへの投資対象(2)アクティブ運用を目指す、といった観点で選ぶとよいでしょう。ここは、慎重に考えるなら、新興国全体に投資する、あるいはコモディティ全体に投資するといった海外ETFを選んでいいでしょう。先ほど質問に出ていましたが、ラテンアメリカ、南アフリカなど自分が興味のある地域があれば、そういったところを選ぶのもいいと思います。
ただし、あくまでもコアとサテライトを意識して、海外ETFを上手に利用していくのが、賢い運用への第一歩だと思います」
――海外ETFの活用法がよくわかりました。ありがとうございました。
(聞き手 酒井富士子)