EMI大中華地区の全株式を鄭東漢氏が買収
先に、前EMIアジア地区の総裁で金牌大風(Tyhoon Group)総裁の鄭東漢氏がEMI大中華地区の全ての株式を買収、EMIが中国市場から正式に撤退することが発表された。もう一つのニュースは、ソニーが12億ドルでドイツに本拠を置くメディア企業であるBertelsmannグループから米SONY BMG MUSIC ENTERTAINMENTの50%相当の株式を買収したという知らせだ。ソニーは元々SONY BMGの株式の半数を持っていたので、これで持ち株を全額買収したことになり、新会社はSony Music Entertainment(SMEI)と命名され、ソニー米国法人の完全子会社となった。
EMIの経営難は表面からだけ見ると海賊版とデジタル音楽の流行に関係がありそうだが、これはあくまで表面的な現象にすぎない。Universal Music Group、Warner Music、SONYなど大手レコード各社も、EMIと同じ状況に直面している。
四つの大手レコード会社のうち、EMIは最も早くニューメディアへの対応を試みた会社。また、中国国内でいち早く検索最大手の百度と「広告と版権を交換」する協定を結んだレコード大手四社のメンバーでもある。従って、EMIのニューメディア戦略が他社に比べて特段悪かったわけではないのだ。
鄭東漢氏のEMI大中華地区の株式買収については、当時多くの人びとが、聯想(レノボ)がIBMのPC事業を買収したときのように中国の音楽企業の国際化が革命的に進むと期待し、中には中国人の誇りとまで言った人達もいたほどだ。しかし、EMI大中華地区の経営難問題については、さすがの鄭東漢氏も解決のしようがないだろう。
低コストのビジネスモデル確立が鍵
中国音楽業界での買収劇といえば、ソニーを挙げないわけにはいくまい。ソニーのBMG買収は、例えて言うと、二人の困窮者が寒い中互いに寄り添って冬をしのごうとするようなものだった。そのため、両社とも資本提携だけに留まった。言い換えれば、量的変化はあるが、質的変化はなんら見出せない買収だった。
新生ソニーにとっては、ニューメディアが台頭する状況下で、低コストの運営モデルを見出すことこそが問題解決の正しい道なのだ。現在、レコード大手四社の報酬支払い基準やレコードの宣伝モデルはいずれも1980年代のものだ。かつてCDなどの出現により、音楽産業は繁栄期に入った。しかし、やがてデジタル音楽と海賊版による衝撃を受け、市場の収縮が始まった。従って、従来のやり方でレコード業界を改革しようというのでは、活路はまったくないと言うべきであろう。
デジタル音楽の時代には、新たな低コストの運営モデルが必要なのだ。しかし、既存のレコード会社はいずれも従来のビジネスモデルの支配下にある。仮に、今後も従来のモデルに固執しようとするのであれば、活路を見出だすのも難しいだろう。
従って、音楽産業界を賑わせた上記二つのM&Aは、資本市場では一応のニュースだが、実際に業界に与える影響はさして大きくないように思える。まして中国国内の中小レコード会社にとって、この二件のニュースは自社の事業となんら関係がないはずだ。
M&Aは、音楽産業の救いの神ではない。合従連衡は今後もあるだろうが、新たなルールの確立がなければ、音楽業界に巣食う問題は解決されない。従来の単純なレコード販売モデルを変革し、音楽をゲームや映画といった新しい娯楽形態と融合させ、より効果的なPR活動に結び付けていくことが求められている。