「背景のCGにはゲームの影響も……」
――吉浦さんの一連の短編作品は、画的にも、世界観的にも、押井守さんからの影響を強く感じます。またSF作品として観た場合、ロボットや未来世界の認識の仕方に関して、古典的なSFというだけでなく、『ブレードランナー』じゃないですけど、対象とのリレイションシップや自身や対象のアイデンティティに関しての言及が多いような気がします。そこは吉浦監督の中でテーマだったりするんですか。
吉浦「押井さんの初期の作品が大好きで、確かに大きな影響を受けていると思います。あとは、やっぱり昔からいわゆる古典的なSFが凄い好きだったんです。アシモフのロボット3原則だったり、P・K・ディックの作品も……。でも、そういう古典的SFって、アニメを観ると意外と映像化されていないから、やりたかったんですよ。基本的に自分の作品は今までの全部SFタッチです。それも、ちょっと古臭いといわれるような世界観だと思うんですけど、意外とそういうものに対して、昔からSF読んでいる人はともかく、割と若いアニメ世代の人には新鮮に映るみたいです。それは嬉しいですね」
――『イヴの時間』は、まさにロボット三原則がテーマですよね。
吉浦「そうですね。ただ、僕がほんとに趣味全開でやれば、もっと三原則の論理ゲーム的なことをやりたいんですけど、多分それはキャッチーじゃないと思ったんで、ロボットの生命倫理とか、社会性とかの問題はさておいて、高校生の男の子が『この娘、かわいいけど、人間じゃなかったらどうしよう』って、そういう身近な感覚で話を作れないかと思って……」
――確かに大きな題材を個人のコミュニケーションまで落とし込んで描いていますよね。
吉浦「やっぱり、僕としては、そっちの方が面白いと思うんですよ。政治劇やるよりは男の子のドキドキかなって感じですね。とくに今回、設定はSF色が強いので、逆にその方がいいかと思ったんです」
――予告編を見る限り、今後の展開は、あそこのカフェに集う人やアンドロイドたちの、個々のエピソードが描かれていくのでしょうか? 連ドラ的というか、1話完結の連作ドラマのようなスタイルで。
吉浦「そうですね。特にこれからは登場人物や場所が一緒なので、1話ごとにかなり作品のトーンを変えていきたいと思っています。3話も4話も、1話や2話とはガラッと変わった雰囲気になるので、その辺は色々と楽しんで観ていただけるんじゃないかと思います」
――映像についても訊きたいんですが、3D背景のカメラの動きとか、カット割りなどに、映画やアニメよりも、ゲームからの影響を感じたのですが……。
吉浦「それは、あるかもしれません。子供の頃はやっぱりマンガやアニメより、ゲームっ子でしたからね。『MYST』という3D視点のアドベンチャーゲームが大好きで、あれが好きで3Dのグラフィックを描き始めたようなもんですから(笑)。いまだに自分の作品の背景デザインとかは『MYST』っぽいんですよ」
――監督にとって伝えたいテーマとは別に、映像表現の手法として3Dで描くということは必然なのですか?
吉浦「必然といえば必然ですね。学生時代から作っていて、今、自分自身が持っている技術で一番クオリティが高いものを作るにはどうしたらいいかと考えたとき、背景、例えばジブリみたいな手描きの美しい背景が描けるわけでもなく、逆に3DでPIXERのようなアニメーションが作れるわけでもなかったんです。そういう意味では背景は3Dで、キャラは手描きでっていうのが、自分としてクオリティ数値が一番高いものになるだろうと考えた結果なんです。ただ、今もその延長で来てますけれど、もちろんそれ以外の手法で、よりクオリティの高いものが作れるようになったら、別の方法で描くと思います」
――クオリティ的な部分だけでなく、吉浦監督のなかで『これから、こういう風に作品を作っていきたい』というような、願望などがあったら、教えてください。
吉浦「あの、今まで作った作品ってどれも極論すれば室内での会話劇なんですが、ちょっと今回で終わりにしたいなっていうのがありますね。次は外に出る話をやろうかと。あと、ずっと一貫して思うのは、企画的に、なんかちょっと変わったものがやりたいです。例えば今回だったら『アニメで、ほぼワンシチュエーションで、そこだけでお話が展開していく連作ものってないなぁ』と思って作ったので、今後も自由な仕掛けみたいなものを必ずひとつは入れながら作っていきたいですね。今後の作品でも」
――監督はずっとアニメーションで表現していきたいのですか?
吉浦「スタート地点はアニメだったのですが、特にこの『イヴの時間』を作ってみて、やっぱりアニメならではの表現の制約っていうものを痛感した部分もあります」
――具体的には?
吉浦「『イヴの時間』って人間模様じゃないですか。だから派手なアクションがあるわけでもないんです。その代わり何があるかというと、やっぱり会話の掛け合いだったり、感情の変化だったりするんです。今回作ってみて、まあ、これは視覚的表現に限った話なんですが、アニメのキャラクターに過度に演技力を期待してもダメだなって思ったんですね。実写だったら上手な役者さんであれば、笑っているけれど、でもちょっと実は悲しさもあってみたいな感情を、表情だけで表現できるわけじゃないですか。アニメでは、それが無理なんですよね。絵が記号的だから感情表現も全部記号的なんですね。で、それをやろうと思ったら演技だけではなくて、色んなカメラアングルとか、バックショットでなんか別の物をインサートしてみたりとか、演出の小手先を使わないと細かい感情表現ができないんです。そういう意味で、『実写はいいよなあ』と憧れる部分もありますよね。だから、今後、自分が出していきたい企画でアニメよりも実写の方がアドバンテージが高いなと思ったら、実写もやってみたいですね。あと、まあ夢なんですけど、いつか舞台演出もやってみたいとも思ってます」
――学生時代の吉浦監督のように、ひとりで作品を制作しながら、プロへの道を目指してる人って多いと思うんです。そんな方々に、なにかアドバイスのようなものはありますか? プロになって苦労したお話なんかも訊かせていただきたいのですが。
吉浦「個人で作っていると作り込めますけど、いざ集団制作でやると他のスタッフにとっては、数ある仕事のひとつだったりして、思い入れも違います。監督をしていると、そういった部分のすり合わせが大変だと思います。あと、集団だろうが個人だろうが変わらない部分は変わらないなぁと。自分がやりたいことを押えて、そこを作り込むといういうやり方は、個人体制でなくなった今でも変わりません。あとは、ソフト、ツールに関してなんですけど、ツールってかつての絵筆とか、セル画とかではなくデジタルなので、機転を利かせて工夫すればが簡単に済むことが沢山あるんです。10かかる作業を1で済ませる手法を自分で探すか探さないかで全然違うと思いますね。そういうのを積極的に見つけていくと結構作業が楽になるので、プロの世界ではそれが大切かなと思いますね」