日本で最も純資産残高の規模が大きい投資信託といえば、国際投信投資顧問が設定・運用している「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」、通称グロソブだ。純資産残高は4兆6,000億円規模。単独のファンドで、これだけの純資産残高に成長したファンドは、今まで1本たりともなかった。それだけ、このファンドの商品性が、幅広い個人投資家に受け入れられたということなのだろう。

そのグロソブが、10月に入ってから解約にともなう資金流出に見舞われている。実は同ファンド、6月上旬の段階では5兆5,000億円規模の純資産残高を維持していた。それが10月23日時点では4兆6,481億円まで減少した。

もちろん、投資信託の純資産残高は、資金の出入りだけで増減するわけではない。純資産残高とは、ファンドに組み入れられている株式や債券など、組入資産の時価総額を示したものだ。時価総額である以上、その値動きによっても、純資産残高は増減することになる。

グロソブは、世界中のソブリン債券に投資するファンドだ。ソブリン債券とは、たとえば政府が発行する国債をはじめ、地方債、政府関係機関債など、要は国に関連する公的機関が発行する債券を意味している。つまり、一般企業が発行する社債に比べて、各段に信用度が高いとされている。当然、価格の乱高下も小さい。

しかし、同ファンドに組み入れられている債券の種類を通貨別に見ると、37.3%がユーロ建ての債券で、これが最も組入比率が高い。ちなみに米ドルが28.4%、円が15%だ。昨今、円建て資産の組入比率を高めているようだが、それでも全体の4割近くを組み入れているユーロが、同ファンドの基準価額を押し下げている。8月29日時点では7,515円だった基準価額は、10月28日時点で5,908円になり、ついに6,000円も割り込んだ。この間に80円の分配金が支払われているので、それも含めれば6,000円割れにはならないが、ユーロの対円での暴落が、基準価額の下落につながっている。

当然、ここまで円高が進めば、為替差損によって、ファンドに組み入れられている海外資産の円建て価格は下落する。それを受けて、純資産残高が目減りするのも理屈の通り。しかし、問題はやはり解約の動きが顕著に見られることだ。

これは、基準価額の騰落率と、純資産残高の増減率を合わせてみるとわかりやすい。基準価額とは、ファンドの受益権1口あたりの純資産残高を意味している。つまり、追加購入や解約による受益権口数の増減がなければ、同期間における基準価額の騰落率と純資産残高の増減率は、一致するはずだ。それが一致しないというのは、組入資産の値動き以外の要因で、純資産残高が増減していることを意味する。具体的には、追加購入や解約が生じているかどうかということだ。

仮に、一定期間中の基準価額が10%上昇したとする。これに対して、純資産残高の増減率が5%しか増えなかった、あるいは10%減少していた場合は、明らかに解約が生じたことで受益権の口数が減ったことを意味する。逆に、基準価額が10%上昇するなかで、純資産残高が20%増えた場合は、新規資金の流入によって、受益権口数が増えたことになる。

ということで、10月に入ってからのグロソブの基準価額騰落率、ならびに純資産残高の増減率をデイリーベースでトレースすると、明らかに資金が流出していることが見えてくる。

もちろん、解約が生じたといっても、4兆6,000億円規模もあるから早々に繰り上げ償還されるようなリスクはないと思うが、それにしても、これまで長年にわたって資金流入が続いてきたファンドが資金流出に転じたということは、ちょっとエポックメイキングなニュースだ。

そもそもこのファンドは、高齢者を中心にして、彼らが「死ぬまで」保有し続け、分配金を受け取っていくものだと思われていたフシがある。実際、昨年以来の混乱マーケットの最中でも、資金流出は見られなかった。それが、9月に入ってところどころで資金流出が見られるようになり、10月に入ってからは連日、解約による資金流出が続いている。ファンドの保有者の意識に変化が生じてきたのだとしたら、今後も資金流出が止まらなくなる恐れがある。

いずれにしても、資金流出はファンドの運用にとって望ましいことではない。解約資金を作るために、ファンドに組み入れられている債券の一部を売却しなければならなくなる。ファンドの運用成績を上げるために、より有利な債券を組み入れようとしても、資金が流出しているのだから、それもかなわない。その悪循環に陥らないことを祈るばかりだ。

JOYnt代表 鈴木雅光氏プロフィール

1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。