クラウドを支えるデータセンターの重要性

Ozzie氏はまた、サービスインフラであるデータセンターの重要性についても説いた。1カ所のデータセンターでは、ロードバランシングや冗長性などには対応できても、停電、火災や地震など様々な原因でサービス停止の可能性がある。2カ所にすれば解決するが、その途端にネットワークレイテンシの問題がユーザー体験に影響を及ぼす。しかも2カ所でも充分ではないのだ。グローバル規模で利用できてこそクラウド・コンピューティングである。データセンターを世界的に展開すれば、データやコミュニケーションの問題に加えて、政治的な問題、税金の問題など、解決すべき問題が山積みになる。「これでもクラウドが、われわれが知っている過去よりも便利な世界だと思うか?」と問う。懐疑的になる開発者やIT専門家に、今度は「間違いなく異なる」と答えた。ハイスケールなインターネットサービスをサポートできるインフラを整えれば、そこから全く新しい世界が開けるという。ただし、それを実現できる企業は限られており、そこにMicrosoftがクラウドを手がける意味がある。

"Red Dog"プロジェクトを率いてきたAmitabh Srivastava氏は、Windows Azureを「従来型のOSのような1台のマシンのためのOSではない。グローバルなデータセンターのインフラを管理するクラウドのためのオペレーティングシステムである」と説明した。プロセッサからデータセンターまで、幅広い規模のシステムをグローバル規模で扱うインフラは巨大かつ複雑である。 Windows Azureはそれらの複雑性を一手に引き受け、また従来型OSのデバイスドライバに相当する抽象的なレイヤーを提供することでプログラミングの重荷を解消する。

"Red Dog"プロジェクトを率いたAmitabh Srivastava氏

クラウドに対して従来型サーバのプラットフォームを"On-Premise"と表現。2つが共存、補完関係を築けるかも注目点であり、On-Premiseは今後のキーワードになりそうだ

サービスの安定提供を実現するAzure

複雑なインフラにおけるアプリケーションの管理は難しい。従来のコンピューティング・アーキテクチャにおいても、パフォーマンスを引き下げないようにアプリケーションをアップグレードしたり、または基盤のOSだけをアップグレードしたりするのは困難だ。Windows Azureでは、基盤OSからアプリケーションを切り離して管理することで2つのアップグレードシナリオに対応する。ユーザーのサービスの導入からアップグレード、コンフィギュレーション変更などサービスを管理するファブリックコントローラが同OSの中核となっており、同コントローラが全てのデータセンターをファブリックもしくは共有のハードウエアリソースと見なして、そこで動作する全てのサービスの管理・共有を実現する。カスタマーがサービスを変更する場合、ステートを指示することでファブリックコントローラが必要な変更を慎重に実行する。サーバだけではなく、サービスモデルに従ってサービスも管理しながら、柔軟なスケーリングと健全なサービス実行を統率する。またストレージシステムも、アダプティブなレプリケーション、自動ロードバランシング、キャッシングなどを用いて、ユーザーの作業を滞らせることなく変化し続けるロードに対応。継続的で安定したサービス提供の実現に寄与する。

Azureの最終版の提供時期、価格やライセンスモデルについては一切明らかにされなかった。「(CTP:Community Technology Previewで) 体験できるサービスやサービスモデルは極めて初期のものであり、また最終的にどのようにロールアウトするかについては、その革新性から我々は意図的に慎重に進めている」とOzzie氏。CTPはあくまでもプレビューであり、今後大きく変わる可能性を伝えた。その一方で、革新的であるからこそ、初期の開発者の協力が、今後の方向性に大きく影響するとした。「あなた方の働きかけによって、プラットフォーム内のより多くの機能へのアクセスが解放され、そしてコマーシャルリリースがより現実を帯びることになる」と参加を訴えた。