上流工程からIS部門が関与

こうした課題を分析し、「個別最適」「外部依存」「求心力低下」との項目に焦点を絞り、「全体最適」「実行力強化」「ISガバナンス」に注力することとし、2004年12月から、改革のためのシナリオづくりに着手した。ここでキーワードとなったのは「主体性の回復」だ。「自分たちの問題として、自ら現状を変えていこう」との意識を強くして、策定されたシナリオに基づき、2005年4月から改革が実行された。

個別最適を全体最適へと移行させるため、プロセスを軸に、事業ごとに縦割りになっていた構造を見直し、まず、「ソニーのプロセス・システムのあるべき姿」を想定した。企業を取り巻く環境の変化がいっそう激しくなるなか、「変化への対応をしやすい構造をもったしくみ」の構築が図られた。

そのため、実行力の強化に向け、リソースの割り当て方を再考した。企画構想に始まり、用件定義、基本設計、詳細設計を経て、開発・テスト、運用保守へと至るプロセスそれぞれに対し、リソースの割り当てはどうなっていたのかを見直した。それまで同社では、IS部門が最も深くかかわっていたのは、開発・テストであり、そのほかには、設計、運用保守に携わり、企画構想、用件定義の段階では、ビジネス部門が関与していた。これを改め、企画構想、用件定義という上流工程でも、IS部門が大きく関わるようにした。

評価基準を見直し、コスト・納期遵守率は40%から70%に向上

ISガバナンスの強化では、予算権、人事権などをはじめ、ISについての権限を集中、強化した。さらに、プランニングの工程では、ビジネス戦略を分析し、それをプロセス戦略にして、投資の枠組み決定の指針と位置づけ、IS事業計画へと進む流れを構築した。

また、プロジェクトの進行を評価するプロセスが確立された。企画構想の段階では、まず初期には経営貢献度を、設計構想へと進む時期には目標効果を、設計構想に移ると、社全体のアーキテクチャーとの整合性などを評価し、導入の段階では最終的に効果の達成度を評価する。このような評価基準を適用したことにより、2005年度には40%であった「コスト・納期遵守率」は、2007年度には70%に向上したという。

こうした変革の流れを受け、同社のIS中期方針では、ソニーのビジネスへの確実な貢献を期して、プロセス変革では、SCMプロセスの強化、BRICs(中国、ロシア、ブラジル、インド)ビジネスへの対応、ソフトウェア設計改革などが打ち出された。リスクマネジメント強化では、グローバルデータセンターの設置、テクノロジーリスクの最小化、環境負荷の低減などが図られた。

IS部門が主体となった施策が必要

長谷島氏は「IS部門に対する期待、役割は変化し、拡大している。この部門はもっと積極的に活動しても良い。彼らが主体となった施策が必要になる」と指摘、「仕事の仕方を変えるべき」と主張する。ソニーのここまでの改革は「マイナスをゼロ、あるいはプラスに転換させるものだった」が、「そこに甘んじることなく、さらに高い志をもって、より高いゴールを設定してまい進することが重要だ」として、次のステップへのキイワードとして「Be Anbitious」を挙げ、講演を締めくくった。