現代美術館は地方の方がおもしろい、のかもしれない。作品自体が目新しいとか刺激的という意味では、都心のギャラリーにはかなわないところがあるが、広く一般の人々が気軽に楽しめて、現代アートに触れる事ができるという事では、地方の美術館に一日の長があるように感じる。例えば、毎回、新鮮な展覧会を開催している水戸芸術館、新たに開館し話題を呼んでいる十和田市美術館、そして、バラエイティ番組までが取り上げた「ロン・ミュエック」展を開催した金沢21世紀美術館といったところだ。
その同館では、いまアートと街の関わりにフォーカスした展覧会『金沢アートプラットホーム 2008−自分たちの生きる場所を自分たちでつくるために−』を10月4日より開催している。会期は12月7日まで。
「金沢アートプラットホーム 2008」はアートが美術館の外に飛び出し、金沢の街を舞台に行なっているプロジェクト型の展覧会だ。商店街の空きビルや街中の空き家、公園や自治体などの公共施設を表現活動の場として、金沢在住を含む国内外から約20名のアーティストが集結し、型にはまらないさまざまな表現手段による作品が街中に展開されている。会期中はアーティストによるパフォーマンスやワークショップが行われたり、関連するイベントや展覧会があちこちで開かれている。
このように街の人々と織りなすアートが、伝統工芸の街、北陸の小京都・金沢に新たなもうひとつの顔を加えている。アートは"特別な誰か"のものではないのだ。また、街づくりや商店街の活性化など、経済や地方行政の側面から、アートが地域再生にもたらす可能性にも注目したい。
ここからは、同展覧会で発表された作品(一部)を解説していこう。
アトリエ・ワン <いきいきまちやプロジェクト> 横山町の町屋
塚本由晴、貝島桃代の二人組の建築家ユニット、アトリエ・ワンが築120年の町屋を再生した作品。地元の若手建築家や大学生、町屋再生保存を目指すNPO、職人大学校を卒業した職人らとの恊働で改修が行なわれた。通りに面した増築部分を撤去して格子を再現する事で町屋としての表情がさらに豊かになっている。この町屋が今後、どのように活用されるのかが楽しみだ。
高橋治希 <ウシミツ> 高岡町の空き家
金沢在住の高橋治希は高岡町で半ば倉庫のようになっていた古びた町屋を使い、アスファルトが敷きつめられ、形作られた自然の風景が表現されている。入ってすぐは真っ暗闇だが、長くいればいるほど、目が慣れてきて、足元に無数の草木が生えている事に気付く。実はこれはアスファルトでできており、すべて手作業で造型され、手で"植えられた"事に驚く。
青木千絵 <BODY 08-1><BODY 08-2> 椿原天満宮
金沢美術工芸大学大学院博士過程に籍を置く青木千絵は、伝統的な北陸の工芸技術である漆を使った独創的な作品。同学近くにある加賀藩ゆかりの椿原天満宮に展示されている。社の天上から漆をまとった固まりが垂れ下がり、そこからそれぞれ男性と妊婦の下半身が現れている。静謐な社に艶かしくもある同作の組み合わせは、宮司をして「土地の年寄りに説明できるようにならねば」と言わしめるほどのインパクトがある。しかし、不思議と安心感を憶えるようになる作品空間だ。
丸山純子 <空中花街道> タテマチストリート
「越後妻有アートトリエンナーレ2006」などの国際展にも顔を出す丸山純子は、レジ袋を使って花を作り、金沢のワークショップを行い、金沢21世紀美術館にほど近い、全長450メートルの竪町商店街通りいっぱいに飾るプロジェクトを展開。
中村政人 <Z project> 山越ビルほか
アーティストイニシアティブ・コマンドNを主宰する中村政人。アートを小さなハコに閉じ込める事なく、早くから社会活動として、アートと人、アートと街の関わりを掘り下げ、追い続けてきた先駆者。地域再生にアートがいかなる役割を果たすのか、中村の活動はアートの枠を超えて、政治や経済の側面からも刮目に値する。これまで秋葉原にはじまり、秋田・大館、沖縄、富山・氷見、水戸、と、アートによるコミュニティづくりを展開してきた中村の金沢での活動は、兼六大通り商店街に期間限定のアートセンターを作る「Zプロジェクト」だ。
フランク・ブラジガンド <自然の要求とこころに必要なもの> 玉川公園内トイレ
オランダを拠点に活動するフランク・ブラジガンドは、現実の社会に存在するものをペイントすることによって再生し、その魅力や特異性を引き出す「リアリスティック・ペインター」。金沢では、玉川公園にあった、古ぼけ、打ち捨てられたような"公衆便所"にペインティングを施し、都市の公園に相応しい、美しいトイレに再生した。