世界中でベストセラーとなった『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者であるロバート・キヨサキ氏が考案し、著書に何度も出てくるゲーム「キャッシュフロー」。このゲームの大会が各地で行われるなど、マネーを学ぶ人たちの間でお金持ちになるための知識、考え方が学べる、と静かなブームとなっている。
不動産や株式に投資したり、企業のオーナーになったりしながらお金持ちになり、最後は自分が最初に決めた夢をかなえる(購入する)ゲームだ。コンピュータゲームではなく、「人生ゲーム」や「モノポリー」のようなボードゲームで、国内では基本セット、上級者向けの追加セット、子ども用セットの3種類が発売されている。
このうちの基本セット「キャッシュフロー101 日本語版」(2万1,000円)を、普段からFXを中心とする投資を行う私と、マネーに関して素人の大学生2人が体験してみた。結果、学ぶことができたのは(1)資産や投資対象の種類とその選び方、(2)お金持ちになる上で、株や不動産投資、起業が欠かせないということ。さらに(3)リスクを過大評価して投資のチャンスを見逃していてはお金持ちになれない、(4)資産を増やすことで、より大きく稼ぐチャンスを得られる、といったことなどだ。
投資経験がある方は、「当たり前」と思うかもしれない。このゲームは投資のノウハウを学ぶものではなく、投資の心構え、そして「人生になぜ投資が必要なのか」を学ぶものだ。それを身体と頭を使って疑似体験できることも大きい。真剣さや気づきという点では、読書で学ぶより何倍も効果的と言える。『金持ち父さん貧乏父さん』で繰り返される「お金のために働くのではなく、お金を自分のために働かせる」ことが疑似体験できるだろう。
給料のために働く生活からの脱出を図るのが第一目的
さて、ゲーム自体はラットレース(ゲーム盤の内円部分)と、ファーストトラック(ゲーム盤の外周部分)の2つのコースを使い、スゴロクの要領で進んでいく。ラットレースは、月々の給料のためにあくせく働き続ける堂々巡りの人生を表す。
働かずとも手に入る収入「不労所得」で生活をまかなえるようになると、ラットレースを脱出して、気楽なファーストトラックに移り、そこで一定の条件を達成すればゴールとなる。ファーストトラックは不労所得と資産をさらに増やして、楽しく自分の夢をかなえるフェーズだ。
身体と頭を使うと書いたが、このゲームは正直、面倒だ。準備段階で配布されるシートには、損益計算書と貸借対照表が印刷されており、選んだ職業に応じて、収入と支出、資産と負債を記入するなどの作業が必要になる。初めてだと30分ほどかかるだろう。ただ、マネー知識がない大学生でも全く問題なく記入できた上に、損益計算書と貸借対照表、キャッシュフロー(資金の収支)の役割が、何となくではあるが初心者でもつかめる。
ゲームが始まって最初に経験するラットレースの段階は、スゴロクで進みつつ、投資チャンスが書いてあるカードなどを引いて、投資判断を行う。給料から余った資金を、株や不動産投資などで少しずつ増やし、その資金でさらに株や不動産を購入するということを繰り返すのだ。当初は、投資リスクを最小限に抑えて給料の余りを堅実に貯めようとするプレイヤーもいるが、周りのプレイヤーがその何倍ものお金を投資で手に入れるため、すぐに投資の必要性を実感する。
まずサイコロを振ってマスを進み、ラットレースを回り、止まった場所に書いてある指示に従ってゲームを進める。不意の支出カードをひくことも |
コンドミニアム購入可能カードをひき、あさっりローンを組んでしまった筆者 |
マネー知識がない大学生もゲーム後には投資の必要性を実感
結局、開始から3時間もたった頃、1人目がラットレースから脱出した。その間、何十回と収入や支出、投資の収支を計算し、計算結果を書いたり消したりを繰り返すのは苦痛ですらあった。「コンピュータゲームだったら楽しいのに」という会話が何度もなされたくらいだ。ただし、メーカーの思いは「苦労して手計算することが知識をつける早道」というもの。狙い通り、プレイヤーは手計算のラットレースに疲弊し、堂々巡りの人生を抜け出すことの重要さを痛感できた。
ファーストトラックは資産もどんどん増えていくので、雰囲気もそれまでとは全く異なる。30分もしないうちに、3人とも楽しくゴールに達した。ちなみに優勝したのは、投資初心者の大学生Yくん。ちなみに、「お金持ちになるには、投資が必要ということがよくわかった。今は無理でも、お金が貯まったら投資信託などをしたい」とかなり実感こもっと感想を寄せてくれた。もっとも成績の悪かったのはFX投資で日ごろ鳴らしているこの私。破産カードなどをひきまくり、運が悪かったこともあるが、ここのところ、損失まみれで落ち込みがちだが「それでも投資をしていることは正しかったんだ」と自分を励ますきかっけとなった。
一方で仕方ないことだが、現実で味わう投資の厳しさが体験できないところが、投資経験者には心残りだった。株にしろ不動産にしろ、多くの投資対象で価格変動幅が決まっており、儲けるか損するかがほぼ予測できるようになっているからだ。
最後に実務的な点を。ボードゲームなので参加者が必要だし、人数も多い方が楽しめる。興味を持った方は、初心者にも参加できるゲーム大会が開催されているので、それに参加するのがいいだろう。国内販売元である株式会社マイクロマガジン社も、ゲームを体験できるセミナーを実施しているのでチェックしてみよう。
鈴木陽(すずきよう)
IT系雑誌記者、金融雑誌編集を経て、現在はフリージャーナリスト。3年前からFXをはじめ、その後、さまざまな金融商品に投資をするように。企業のマネジメント層や金融会社を数多く取材し、経済や投資商品に関する記事を手がける。