KDDI 小野寺正社長

KDDIは、2008年度上期(2008年4-9月)の連結決算を発表した。売上高は対前年同期比0.8%増の1兆7,473億円、営業利益は同5.3%増の2,629億円、経常利益は同3.9%増の2,622億円、当期純利益は同3.7%増の1,511億円で、増収増益となった。売り上げ全体の3/4を占める携帯電話事業は、端末の販売台数の減少などの影響で、減収、増益だったが、連結営業利益の、通期目標に対する進捗率は59.3%であり、業績見通しは変えていない。

同社の中核である携帯電話事業は、売上高が同1.5%減の1兆3,607億円、営業利益は同5.3%増の2,879億円だった。累計契約者数は3,045万、シェアは29%だ。同社はこの春、ツーカーブランドのサービスを停止しており、今年度からはauだけになっている。減収の背景について、同社の小野寺正社長は「ARPU(Average Revenue Per User:1契約当たりの月間平均収入)、特に音声ARPUが、『誰でも割』など割引の大きな影響を受け、減っている。データARPUの増加が、それを吸収できなかった。また、端末そのものの販売台数が減っている」と指摘した。

端末販売台数の減少は、販売方法の変更による影響

携帯電話業界では、各社とも、端末価格を引き上げ、12-24カ月での分割払い制に加えて、月々の通信料は低くする形式を導入した。これにより、従来のような短期間での端末買い替えが少なくなり、市場全体で、端末の販売台数が縮小している。端末価格の「上昇」で、販売店に対する、販売手数料の第2四半期(2008年4-6月)の平均単価が、およそ3万8,000円となり、第1四半期の同じく4万5,000円に比べ、7,000円減った。しかし、端末販売台数は第1四半期が286万台、第2四半期は270万台、前年実績はそれぞれ、353万台、408万台で今年度は大幅に下降している。

携帯電話業界全体にわたる端末販売の減少傾向は「販売方法を変えたことの影響による」(小野寺社長)ものであると、同社はみている。同社は6月10日から、「買い方セレクト」の「シンプルコース」を一部変更、新シンプルプランと端末の分割払い制を導入した。その結果、ユーザーの55%が「シンプルコース」を、その91%までが分割払いを選択しており、24カ月分割が多数派だという(2008年夏モデル以降の端末(W61S含む)のうち、7月1日-9月30日までに販売した分)。

小野寺社長は、「下期に向け、できるだけ端末の販売を増やしていかなければならない。ただ、現状のままでは、どうしても前年比減を避けるのは難しい。いかにして、端末の魅力を引き上げ、サービスを向上させていくかが最大のキーポイント」と話したが、秋モデルの新端末の発表を直前に控えているため、具体的な策については言及しなかった。

ここまでの進捗率は順調

シンプルコースが増加する傾向にある

携帯電話販売台数の減少は、景気の影響とは限らない

固定通信事業は、売上高が同19.3%増の4,231億円だったが、営業損益は252億円の損失となっている。ただ、赤字幅は対前年同期比で43億円縮減した。増収となったのは、今期から、中部地方での光ファイバー事業などを展開するCTC(中部テレコミュニケーション)が連結対象になったことや、従来「その他」と区分していた、ケーブルテレビ事業のJCN(ジャパンケーブルネット)グループ、海外の固定系子会社が含まれるようになったことが影響している。FTTH事業は依然赤字で、この領域は未だ黒字転換できていない。

米国のサブプライムローン問題に端を発した、深刻な金融不安が国内の証券市場にも大きく影を落とし、株価の低迷により、景況感は悪化している。しかし、小野寺社長は「過去の経験則からすると、販売台数は景気の影響を直接受けたことはない」としたうえで、法人向けについても次のような見解を示した。「企業にとって、通信はいわば神経網といえる。景気が悪くなると固定電話が主流だった頃は、多少トラフィックが下がったが、今では、海外への渡航費を抑える代わりに、海外へのトラフィックはかえって増える。海外でのデータセンター事業もしているが、(景気減速は)アウトソーシングの増加傾向を強める。まだまだ、法人向けは伸びる」。さらに、「携帯電話は必ずしも、景気自体の影響を受けるとは限らない」と小野寺社長は繰り返す。

通期実績の期初予想は変えておらず、売上高が同2.9%増の3兆7,000億円、営業利益が同10.6%増の4,430億円、経常利益が同7.9%増の4,400億円、当期純利益が同14.8%増の2,500億円、端末の販売台数は1,440万台としている。売上高や営業利益はここまでの進捗率も良く、予想を据え置くのもうなずけるが、端末販売台数はこの目標達成のためには、下期で884万台の販売が必要となるが、通期実績が1,582万台であった、昨年度でさえ、下期は821万台だった。

新たなアプリケーション・サービスの導入でARPU増加を目指す

減収を防ぐには、端末の販売台数の拡大は必要だ。しかし今後、何が市場成長の焦点になるのかについては「来期以降は正直、むずかしいところだが、料金の割引はほぼ一巡したようなので、割引の影響はそれほど大きくはなくなるだろう」(同)との見通しだ。やはり「新しいアプリケーション、サービスを導入しなければ、ARPUは上がらない。これらは新しい端末との組み合わせで出していく」(同)ので、開発の手を緩めることはない。「いまのユーザーの意向から考えると、年に2、3回は、新製品を出さないと興味は引けない。家電製品でも同様だが、ユーザーの要望は多様化している。広義で、機種の数は増やさなければならない。コストとの関連をみながら、これを実現していくのが、メーカーとわれわれの腕の見せ所」(同)との考えだ。