サノフィ・アベンティス主催のプレスセミナー「急性冠症候群(ACS)~心臓を襲う動脈硬化のなれの果て~」が30日、東京都千代田区のKKRホテルで開かれた。講師として、順天堂大学の代田浩之教授と、同大・宮内克己准教授が招かれ、急性冠症候群の病態やリスク管理、ACS患者を対象に開始された大規模疫学登録研究「PACIFIC」の意義について解説した。

順天堂大学宮内克己准教授

急性冠症候群とは、不安定プラークの破綻を引き金とする血栓形成に注目した疾患概念のこと。動脈硬化では「プラーク」という病変が生じるなどして、血管の内部が狭まるが、そうしたプラークのうち、コレステロールなどの資質を豊富に含むアテロームと呼ばれる部分が大きく、これを覆う繊維性の被膜が薄く破れやすいものを「不安定プラーク」と呼ぶ。急性冠症候群では、たとえ冠動脈の狭窄が軽度でも、冠動脈にできたこの不安定プラークが破綻することにより、血栓が急速に形成され、急性冠閉塞が起こるとされている。

急性冠症候群の初発症状は心筋梗塞、もしくは突然死であり、何の前触れもなく危険な状態に陥ってしまうのが特長。また、急性冠症候群の予後の死亡率も高い。日本においても、欧米化する食生活や運動不足、高齢化などが要因となり、急性冠症候群は増加しているという。さらに、急性冠症候群で問題となる不安定プラークは1カ所だけではなく、全身において複数個存在する確率が高いとされる。ただし、日本での現状などはまだまだ解明されていない部分も多い。宮内准教授は「最適な治療法を確立するために、リスク因子や予後の調査が急務である」と説明、また薬物による適切な管理が求められるとする。

順天堂大学の代田浩之教授

そうした状況の中、ACS患者を対象に開始された大規模疫学登録研究「PACIFIC」では、こうした日本での現状把握などを目的として2008年5月より開始された。入院治療を要した急性冠症候群患者を2年にわたって追跡するというもの。調査症例数は全国100専門施設より4,000例に上る。同調査により、現在の治療実態などが把握でき、将来の治療法の開発やガイドラインへの応用が期待されているとのこと。PACIFIC学術委員会の委員長も務める代田教授は「PACIFICにより、日本人の急性冠症候群では、カテーテル治療がどれぐらい行われているか、成功率はどうかなどが明らかになるだろう」とした。