胃がんの死亡率から比べるとその7分の1という食道がん。さほど多いという印象は受けないが、胃がんの死亡率が減少傾向にあるのとは対照的に、食道がんは増加傾向にあると言われている。また、食道がんによる死亡者数1万1,182人のうち、男性は9,465人という2005年の統計を見ても分かるように、男性がかかりやすい病気というのも特徴だ。

そして1999年の男性罹患者数1万2,402人と死亡者数を比べてみると、罹患者数と死亡者数が圧倒的に近いことに驚く。これは、発見された時点で治癒できる状況に無い場合が多いということを示している。そこで、東京慈恵会医科大学病院内視鏡部准教授の貝瀬満先生に、食道がんにならないためのポイント、そして内視鏡検査を受ける上での病院の選び方について話を伺った。

食道がんベルトをご存知ですか?

世界で食道がんを多い国をつなげると、ベルト状になることから「食道がんベルト」という名が付いています。具体的には、イランや中東アジア、中国、韓国、日本など。病理学的に食道がんは「食道扁平上皮癌」と「食道腺癌」に大別されますが、日本人の95%以上が「食道扁平上皮癌」。そして食道がんベルトに位置する国々もまた「食道扁平上皮癌」が多数を占めています。一方、欧米では「食道腺癌」が優位であり、食道への胃酸逆流が原因で発生するバレット食道という状態に発生しやすいのが特徴で、近年欧米で急激に増加しています。日本の生活スタイルも欧米化しており、その結果食道への胃酸逆流によるバレット食道増加しつつあり、今後「食道腺癌」が増えていく可能性が指摘されています。

日本人に多い「食道扁平上皮癌」の発がんリスクは明瞭です。すなわち、飲酒と喫煙。お酒にふくまれるエタノールは、体内で分解されてアセトアルデヒド(二日酔い物質)となります。このアセトアルデヒドには発がん作用があるため、食道が長期間高濃度のアセトアルデヒトにさらされると食道がんになりやすくなります。別な言い方をすれならば、アセトアルデヒドがたまりやすい体質は食道癌の危険が高い(食道癌高危険群)ということになります。飲酒によって顔が赤くなるのはアセトアルデヒドによる作用ですので、少量の飲酒で顔が赤くなる(または若いことは赤くなった)人はアセトアルデヒドがたまりやすい体質です。このような体質の人で、以前は余り飲めなかったのにだんだん慣れてきてお酒をそこそこ飲めるようになり、ほぼ毎日にように大量の飲酒を続けると、食道癌になりやすいということになります。さらに喫煙が加わると食道癌の発がんリスクが上昇します。

飲酒と喫煙を止めれば癌のリスクは5年で4分の1

このように「食道扁平上皮癌」のリスクは明確ですから、食道癌高危険群の人は早期発見のために内視鏡を受けた方が良いと言えます。そこで、以下の表であなたの食道扁平上皮癌のリスクがどの程度か、チェックしてみてください。11点以上の方は内視鏡検査が必要と言えます。食道癌高危険群の人も、飲酒と喫煙を止めれば癌のリスクは5年で4分の1に減ると言われており、是非実践してみてください。

食道癌は発見された時点では進行しており、完治できるような早期発見が少ないことは先に述べたとおりです。その理由にひとつとして通常の内視鏡検査を受けても見逃されやすいことがあげられます。言葉をかえると通常の内視鏡が容易に発見される段階の食道癌の予後は悪いと言えます。そこでお勧めするなのが、ルゴールという茶色液体の色素を内視鏡を見ながら食道にまいて食道がんの有無をはっきりさせる方法(ルゴール色素内視鏡)です。ルゴール色素内視鏡を用いると食道癌の存在が非常に明瞭に分かり、完治できるような早期食道がんであっても容易に診断できますので、非常に優れた内視鏡検査法です。ただし、ルゴールは刺激性のある液体なので、胸焼けを生じたり、胸部が痛くなる人も多く、この検査法の欠点です。

この弱点を克服できる新しい内視鏡検査法が最近開発されました。NBIという内視鏡画像技術で、ルゴールなどの色素をまかずにルゴールに匹敵する内視鏡画像を得ることができます。この内視鏡装置をもっていると、ボタンを押だけで瞬時に通常内視鏡からNBI内視鏡に切り替えることが可能であり、ルゴール色素によって発生する苦痛が生じません。慈恵医科大学病院でも5年前からNBI内視鏡を導入しており、早期食道癌の発見に大きく貢献しています。

いい病院の見分け方ですが、NBIといったような最新の内視鏡装置を装備しており、食道癌の診断や治療経験が多い施設、と言えるでしょう。まずは自分が通っている病院に確認をしてみていただけるといいかもしれませんね。