Going Greenでもう一つ取り上げられたのが、家庭内での消費電力削減である(Photo20)。ここ25年で大幅に家庭での消費電力が増えているのは言うまでもないことである。ここでFreescaleが示した例はちょっと意表をつくものだった。
Photo20:だからといって、電力を使わないために「エアコンも電子レンジもやめよう」とは言えないわけで、同等の機能をより少ない消費電力で代替出来るようしよう、という動きにならざるを得ない。以下余談だが、ただこうしてみると「まだ動く」という理由で古い電化製品を使うのは罪に思えてくる。ただ筆者は「使えるものは大切に使え」という教えを受けているわけで、しばしば葛藤が(笑)。 |
ソニーから独立したモーションポートレートという会社がある。ソネットエンタテイメントの100%子会社なので、広い意味では現在もソニーグループの一員であるが、ここが手がける技術がやはりモーションポートレート。
同社のホームページに行くと、実際にこの技術を使った例が見られるが(Photo21)、今回モーションポートレートとFreescaleは共同で、この技術をi.MX31に移植した(Photo22,23)。つまりPCなどで利用されるアプリケーションを、もっと低消費電力なプラットフォームに移せるというのがここでのメッセージである。
Photo21:モーションポートレートは、左側の様な静止画を元に、3Dアニメーションを表示する技術。実際眼球の動きに関しては、毛細血管までシミュレーションする綿密さである。静止画はともかく動きを見るとまだはっきり判るが、ずいぶん進化していることは間違いない。 |
次いで話はNet Effectに移った。まず最初に紹介されたのは、同社が最近積極的に開発を行っているRFリモコンである。これまでリモコンといえば赤外線のものが普通だったが、FreescaleはZigBeeの上に同社独自のSynkroと呼ばれるミドルレイヤを提供。これを利用することで、多数の機器向けのリモコンを簡単に作成できるようになっている(Photo24)。実際に会場では、TVとiPodを制御するリモコンのサンプルコードを30秒でビルドし、実際に1つのリモコンでTVとiPodの両方を操作してみせた(Photo25)。
Photo24:RFリモコンの最大の利点は、別に機器にリモコンを向ける必要がない事だろう。ベースにZigBeeを用いることで消費電力も赤外線のものとそれほど遜色ない。ベースとなるのは、2006年に同社が発表したBeeKitのようだ。 |
Photo25:奥のノートPCがはデジタルTVのエミュレーションを行っている。そのTV(もどき)と手前のドッキングステーションに繋がったiPodを1つのリモコンで操作し、再生や一覧表示などを行って見せた。 |
次は基地局向けソリューションである。Beyer氏の講演でも触れられた話だが、ネットワークトラフィックは再び増えつつあり、これを効率よくさばくためにはより大きな処理性能が必要になる。ただ、単にピーク性能が高いだけでは柔軟性に欠けるし、Going Greenを標榜している会社としてはそうした無駄は避けねばならない。そこで、アプリケーション負荷に応じて、リソースの割り当てを変えるという形で負荷調整の出来るQorIQが有利、という話になる。
Photo26:良いか悪いかは別として、とりあえずインターネットのトラフィックは再び増加傾向にある。もっとも米国では定額制から従量制という動きが見えつつあるし、日本でもそうした議論は常に起きているから、今後も右肩上がりが続くと断言は出来ないが、まぁ減る事はないだろう。 |
QorIQのP4080の内容はこちらなどでレポートしているが、Virtualizationを使うことで複数のOSを同時に混在して走らせることが出来る(Photo27)。そこで、実際にSMP OS #1をまず2 coreで実行しておき、途中で1コアを別のAMP OSに割り当て、作業が終わってAMP OSが終了したら再びSMP OSにCPUを割り当てなおす(Photo28)というものだ。
Photo27:今回は2CPUでのテストだから、本来はP4080でなくてもいい(P2とかでも十分だろう)のだが、Virtualizationが動くe500mcコアは今のところP4080のみの実装なので、P4080を持ってきたと思われる。 |
Photo28:OS #1のCPU1のLoadが途中でばっさり0になっている期間は、CPU1がOS #2に割り当てられた期間である。 |
もう1つのデモは、同社が6月に発表したLTEやWiMAX、HSPA+などに利用できるMSBA8100のデモである(Phtoo29)。講演の中では実際に評価ボードを使い、ノイズを人為的に乗せた場合のデコード状況のデモを行ってその能力を示した(Photo30)。
最後がHealth & Safetyの分野である。現在、高齢者の医療費の抑制が声高に叫ばれており、実際後期高齢者医療制度などというものが始まる騒ぎになっている訳だが、こうした高齢者の方の遠隔医療(Beyer氏の講演に出てきたCardioBeltもその一例だ)を考える際に無視できないのは、こうした方々のネット環境のギャップである(Photo31)。
だからといって「そういうわけで日本では無理です」とも言えないのは、高齢化の進行+医師不足(Photo32)もまた進行しているからで、何らかの方策が求められている事もまた事実である。
そこでこのギャップを少しでも埋めるための提案が、この魔改造されたフリス犬である(Photo33)。
Photo33:一見たただのフリス犬(注:Freescale Freakへの登録が必要) |
このフリス犬にはショックセンサやタッチセンサ、カメラなど色々なセンサとワイヤレスクライアント機能が仕込まれている。高齢者の方がこの魔改造フリス犬を抱くと、そのタイミングで必要な情報をまずゲートウェイに送信、そのゲートウェイがメールの形で情報を発信するという仕組みだ(Photo34)。
ここで重要なのは、単に「ぬいぐるみを抱く」というインタフェースにして、PCや携帯の操作を行っていると思わせないことだろう。とりあえず「毎日ぬいぐるみを抱いてもらう」という操作を行ってもらうことで、リモートの医療機関やケアを行う担当者から「正常に暮らしている」という事が判るし、その際に例えば脈拍とか体温などをサンプリングできれば、毎日の健康状態の管理も可能になる。魔改造フリス犬がそのインタフェースとして相応しいかはともかく、1つの提案としては面白いものであった。
またここで、フリス犬に直接メールを発信させるのではなく、1度ホームゲートウェイを経由させる、という提案も面白い(Photo35)。この目的のためのリファレンスデザインを近く発売する(Photo36)というあたりは、Net Effectに繋がる内容だろう。
Photo35:1度ゲートウェイを経由するのは、様々なセンサを組み合わせるにはゲートウェイを設けたほうが楽なこと、ぬいぐるみごとに設定を行わせるよりも、設置時ゲートウェイで一括設定をやるほうが便利なことなどが考えられる。 |
Photo36:個人的にはこのリファレンスキットを入手して、自分でLinuxマシンを立てて遊ぶ人が結構いるんじゃないか?という気がする。 |
最後にまとめとして、あらためて3つのテーマと、具体的な提案がもう1度示されて(Photo37)、高橋氏の講演は終了した。