ツインクラッチは新しい機構ということもあり、わからないことが少なくいない。例えば、機構が複雑になることでトラブルの可能性が増えるのではないか? スポーツ専用のミッションではないのか? 人間の操作よりも上なのか? 三菱自動車「Twin Clutch SST」の2回目は、いくつかの疑問を開発担当者にぶつけてみた。
--クラッチ交換の費用は倍になるんでしょうか?
竹越:倍とはいいませんが、コストは掛かります。しかしそれをご負担いただかないように、少なくとも日本の平均的なユーザーさんの走行では交換しなくてもすむような耐久性は持たせています。オイルも無交換で大丈夫です。具体的には、日本のユーザーさんは15年も乗られることは滅多にないと思いますが、10万キロや20万キロの走行距離なら問題なく耐えられます。
一般的なMTは乾式のドライクラッチですが、TC-SSTでは湿式にしています。オイルで潤滑しつつ、油圧でクラッチを繋いでいます。湿式はクラッチの摩耗がほとんどありませんので、よほど異常な使い方をしない限りプレートなどの交換は必要ありません。坂道でブレーキを離してクラッチを滑らせながら止まってるとか、そういうことを延々と繰り返せばいつか摩耗するとは思いますが、通常の街乗りや、アクセル全開の発進を繰り返しても問題はありません。それと湿式クラッチは常に潤滑してますので、スリップが多いから摩耗するというものではないです。潤滑が失われたり、異常な温度で使われると摩耗します、というか、いきなり焼けてしまいます。焼けたら交換が必要になりますが、焼けてしまう前に警告する用に配慮していますので、その範囲内で使っていただく場合にはほとんど摩耗しません。
交換するほどには摩耗しませんが、どうしても数ミクロン、数十ミクロン単位では厚みが変わってきます。そのため走行中に繋いでいないほうのクラッチをチェックして、どこで繋がるかの変化を学習した値として記録しています。そうしないと、クラッチが繋がる時間がどんどん遅くなってしまう。湿式ですとクラッチを繋ぐ制御も圧倒的に楽で、温度管理もできます。どんなに温度が上がっても100〜120℃程度に抑えられます。乾式だとそれができないので、うなぎ登りに温度が上がって、クラッチを開かざるを得ない。渋滞の走行なども考えてなるべくそういった非常事態に陥らないようにするには、やっぱりオイルで潤滑するタイプの湿式でないと厳しいわけです。
--TC-SSTで使用するオイルは通常のミッションオイル?
竹越:通常とは違います。100%合成の専用オイルです。特に低温で凍らないようになっていて、低温でも液体性を保ちます。固くなるとクラッチのコントロールができなくなって、抵抗も非常に大きくなるためです。一方でシンクロの潤滑もしなければいけませんので、そういうことにも耐えられるようなものを使っています。ただし、このオイルも交換を前提にはしていません。日本のユーザーさんはどうもみんなオイル交換するのが好きで、新車点検で変えてくれといわれる方が多いみたいです(笑)。フィルターもつけてますからゴミをちゃんと収集しているので交換は必要ありませんが、それでも変えたいという方はもちろん変えても問題ありません。
最近のものは、MTもATもミッションオイルはほとんど無交換が前提です。エンジンオイルは熱を持ちますので、5000キロ程度でオイルの粘度が保てなくなります。それでオイル交換していただいていますが、ミッションは封印してありますので、水が入ったりしなければ交換は不要です。
--フォルティス ラリーアートに搭載されているものとは何が違う?
竹越:フォルティス ラリーアートも基本的にはエボリューションと同じです。ただし、制御モードはノーマルとスポーツのみで、エボリューションに搭載されているスーパースポーツは搭載していません。また、エンジンのトルクやタイヤ径が違うので、ギヤ比を変えて、変速の制御もよりマイルドにしています。
--MTモデルが従来の6速から5速になったのはどうしてでしょうか?
竹越:従来モデルでは6速MTがあったんですが、実はラリーなどでの競技車両ではあまり使われていなかった。今回MTモデルは競技車両オンリーで考えましたので、あまり多段化しても意味はないということで5速にしています。MTは改造されるのを前提にしていますので、「RS」という装備を減らして安くした競技ベース車両も用意しています。