言わずと知れた温泉天国の日本。身体にいいとされる温泉だが、飲用もできる温泉が意外と多いのをご存知だろうか。
おもにドイツやチェコなどヨーロッパ諸国では昔から医療と温泉が結びついているため、温泉を飲む「飲泉」が盛んだ。もちろん、日本でも温泉を飲む習慣は太古よりある。だが、ヨーロッパのように医師や温泉療法医のもとで実施されている「飲泉」はきわめて少ない。
環境省が定めた温泉の利用基準では「温泉の飲用についても多くの医治効能が期待できる」とする一方、できる限り医師の適切な指導の下に行われることが望ましいとし、注意が促されている。だが現在、温泉の「飲用許可」は各都道府県の判断に任されており、飲泉可能な温泉地では源泉近くに公共の飲泉所がある。公衆浴場や温泉宿の湯船のそばに飲用の泉が湧き出ていることも多い。
ゆったり湯船につかっては、源泉からほとばしるフレッシュな温泉を飲み、飲んではまたつかる。これぞまさに、身体の内と外で"温泉"を味わうというもの。泉質によって、味も効能も異なる温泉を飲むことで、温泉の楽しみ方もぐっと広がるので、用法・用量を守り、「入ってよし、飲んでよし」の温泉めぐりを楽しんでみてはいかがだろうか。以下、「飲用」できる温泉とおすすめ旅館(*)を紹介していく(*宿の飲用の可否については、各データを参照)。
飲泉の注意点
飲用に際しては、飲用の許可があることを必ず確認し、飲泉設備の湧き口から直接飲むこと。飲み方や注意事項が書いてあれば、それに従おう。(泉質によって、飲泉してはいけない禁忌症もあるので注意)。 泉質にもよるが、一般的に、一回の飲む量はコップ一杯程度まで。食前30分~1時間前など空腹時に飲むのが効果的で、飲用直後のお茶・コーヒー、夕食後~就寝前の飲用はなるべく控える。温泉療法医の指導を受けられればなおよい。
*飲用に関してはすべて自己責任でお願いいたします。
伊香保温泉(群馬県)
実は日本の飲泉文化の発祥地
伊香保温泉といえば、草津と並ぶ群馬の名湯。万葉集や古今集にも詠まれている歴史ある温泉である。同じ関東近郊の温泉地、伊豆・箱根に比べると、庶民的な行楽温泉地のイメージが強いが、実は、「日本の温泉医学の父」といわれるベルツ博士の指導により、日本で初めて飲泉が開始されたのが伊香保である。
伊香保名物の石段を昇り、川原の源泉に行ってみよう。鉄分を含んだ茶褐色の川が流れ、源泉が湧き出す飲泉所がある。鉄の匂いが強く、かなり癖がある。二つの飲み口があるのだが、一方が温泉で、一方が湧き水。この水は温泉の口直しにあるのだともいわれるが本当だろうか。
飲用では利尿作用があり、痛風、アレルギー、肥満などに適している。鉄分が多いので、貧血にもよいという。浴用では婦人病やアレルギーに。伊香保は江戸時代から「婦人の湯」、「子宝の湯」とうたわれてきたというが、実際、女性に喜ばれそうな効能が多いのが興味深い。
伊香保温泉飲泉所
群馬県渋川市伊香保町湯元
TEL:0279-72-3151(伊香保温泉観光協会)
空気に触れると茶褐色になることから「黄金の湯」といわれる伊香保の湯。1キロほど離れた石段街の宿には、伊香保温泉独特の木製の導管で源泉を引湯している。源泉かけ流しを楽しめる宿が、「千明仁泉亭」。伊香保の山並みを見渡せる露天風呂や貸し切り風呂があり、1メートルもの深い湯船や打たせ湯もある。宿では飲泉はできないが、1502年に連歌師、宗祇(そうぎ)が中風の治療のために宿泊し、「めぐみの湯」と呼んだという。伊香保を舞台にした小説「不如帰」を書いた文豪、徳富蘆花(とくとみろか)の定宿でもあった。
千明仁泉亭(ちぎらじんせんてい)
群馬県渋川市伊香保町伊香保45
TEL:0279-72-3355 飲用:不可