ブラジルのリオデジャネイロにあるスラム街ファヴェーラ。この貧困に喘ぐ地獄のような街を支配するのは、銃とドラッグを手にした少年ギャングたちだった。彼らの仁義なき抗争をリアリズム溢れる過激なタッチで描いた『シティ・オブ・ゴッド』(2003年)は、世界中で高い評価を受けた。その続編ともいえる作品『シティ・オブ・メン』が8月9日に日本で封切られた。『シティ・オブ・ゴッド』と同じくファヴェーラを舞台に、少年ギャングたちの抗争と友情が描かれるこの作品を監督したパウロ・モレッリ監督が緊急来日。作中で描かれる、ブラジルの過酷な現実について聞いた。
――『シティ・オブ・メン』はフェルナンド・メイレレス監督の『シティ・オブ・ゴッド』(2003年)と比較すると、バイオレンス描写より、親子の物語や男の友情の方が色濃く描かれているような印象を受けます
パウロ・モレッリ監督(以下、モレッリ)「100%意識して親子関係や友情をメインに描きました。フェルナンド(※今回は製作総指揮を担当)と私は、本作を単なる『シティ・オブ・ゴッド』の続編にする気はなかったんです。同じファヴェーラという街を舞台にした『~ゴッド』が暴力とドラックディーラーの物語だとすれば、『シティ・オブ・メン』では、ギャングに支配された街で暮らしている人々の友情や、家族の絆を描きたかったんです。アセロラ(ドグラス・シルヴァ)とラランジーニャ(ダルラン・クーニャ)というふたりの青年の友情を中心に、この暴力に満ちた街で懸命に生きる人々の姿を本作では描いています」
――この作品で描かれている貧困や暴力の姿は、どの程度リアルなものなんでしょうか
モレッリ「この映画はフィクションですが、残念なことに、かなりファヴェーラの現実の姿をそのままを描いています。様々なエピソードも、実際にあった事件に基づいています。今回の映画では、なるべくブラジルのリアルな現実を描くという狙いがありました。だから出演俳優たちも、ファヴェーラ出身、あるいは現在もファヴェーラに住んでいる人々を起用しました。リアルな作品にするため、スタジオ撮影は行わず、オールロケを敢行しました。ドキュメンタリースタイルを追求したんです」
――現実のファヴェーラ同様、リアルで悲惨な状況が描かれているという本作ですが、そこに生きる人々の未来へのかすかな希望も描かれているように感じました。監督はファヴェーラの過酷な現実の中にも希望がある事を信じているのでしょうか?
モレッリ「自分は楽観主義者なのかもしれませんが、どんな最悪な状況でも、なんらかの形で救いはあってほしいと願っています。希望を持っているんですね。今回の映画のメインテーマの一つは【父親像の欠如】です。ふたりの主人公ですが、ラランジ-ニャはまだ見ぬ父親を探し求め、アセロラは幼い我が子の父親になかなか成ることができない。そのふたりが互いの友情を信じて、なんとか成長しようとする。なぜこんな設定にしたかといえば、それがもしかしたら難しい問題を抱えている彼らの解決の糸口になるかもしれないと思ったんです」
――父親というか、家族や友情が希望となるということなんでしょうか?
モレッリ「そうです。父親が逃げないこと。父が逃げずに居ることによって、息子との関係が築けます。父親不在で暴力に走ってしまう子供たちが、ちゃんと大人になっていければ、すぐには無理でも、暴力に満ちたファヴェーラの街も時間をかけて変わっていくんじゃないかという気がするんです」
暴力と貧困に満ちた過酷なブラジルの現実を描写しながらも希望を捨てないモレッリ監督。これからもブラジルから世界に向けて、映画を通じて真摯な問題提起を続けてくれることだろう。
パウロ・モレッリ プロフィール
1956年、ブラジル、サンパウロ出身。建築を学んだ後、1991年にフェルナンド・メイレレス監督らと共に「O2フィルムズ」を設立し、多数のCFやテレビドラマを製作・監督する。『シティ・オブ・ゴッド TVシリーズ』(2002年~2005年)に、第2シーズンより監督として参加。第4シーズンでは総監督を務める。『シティ・オブ・メン』(2007年)では製作と監督を担当。盟友フェルナンド・メイレレス監督と共に、ブラジル映画界の力量を世界に示した。
『シティ・オブ・メン』 ストーリー
ブラジルのリオデジャネイロのスラム街・ファヴェーラ。ドラッグと暴力に満ちたファヴェーラは、若いギャングたちが街を支配し、十代の子供たちが互いを銃で殺しあう仁義なき土地だ。この街で幼馴染みの親友として友情を育んだラランジャーニ(ダルラン・クーニャ)とアセロラ(ドグラス・シルヴァ)も、いつしかギャングの抗争へと巻き込まれていくのだった……。
『シティ・オブ・メン』は渋谷シネ・アミューズほかにて全国ロードショー中
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インタビュー撮影:石井健