国内の4輪レースでは、トップカテゴリーに位置するフォーミュラ・ニッポン。同カテゴリーを運営する日本レースプロモーションは、18・19日に09年シーズン用の完全新設計のシャシーFN09の第1回先行開発テストを富士スピードウェイで実施した。その模様を取材することができたので、FN09のスペックやコンセプト、そして走行シーン、テストを受け持ったドライバーの金石年弘選手のコメントなどをお届けする。また19日には、JRP会長の中嶋悟氏らが出席して、「新車両概要報告会」が実施された。その模様は、また別途お届けするのでしばしお待ちいただきたい。
FN09のコンセプトは、3つある。ひとつが、「日本独自のカテゴリーとして、今までにない斬新なデザインを追及する」というもの。これは、「先進性と変化」という意味も含まれている。ふたつ目は、「よりスリリングなレース展開が可能な車輌」だ。現行車輌は、前走車に接近しすぎると乱気流の影響を受けやすいので、それを減らし、よりドッグファイトができるようにするという狙いだ。そして3つ目が、「最低3年間使用可能な安全性と耐久性の確保」。F1のように資金を湯水のごとく使ってマシン開発を行わないと勝てないといった仕組みにならないようにするため、フォーミュラ・ニッポンでは、シャシーは3年ごとに更新するレギュレーションとなっており、今回もそれが守られる形だ。場合によっては、今回は3年以上使う可能性もある。
FN09の開発を手がけるコンストラクターは、パナソニック(松下)の操業者の松下幸之助の実孫のヒロ松下(インディ500で10位に入るなど、アメリカンモータースポーツで活躍した経験あり)のスウィフト・エンジニアリングだ。IRL(インディー・レーシング・リーグ)と再統合することで消えるアメリカの2大オープンホイールのチャンプカーのマシンを手がけてきたメーカーで、フォーミュラ・アトランティックやNASCAR クラフツマントラックシリーズに参戦する「トヨタ タンドラ」や、NHRA(ドラッグレース)の「トヨタ セリカ」のファニーカーなども手がけている。今回のFN09は、ドライバーの後方、F1ならインダクションポッドが後方へと続くエンジンカウルの部分がかなり平たい感じになっており、そこら辺にアメリカン・オープンホイール的な雰囲気を感じられる。
そのデザイン的な特徴だが、まず目につくのがフロントウィングの形状。「バイプレーン」と呼ばれる形状を採用しており、上下二重構造で、なおかつ3次元曲面的な独特な形をしている。また、リアウィングも曲面を描いているのが特徴。現行FN06の車幅1800mmに対し、2000mmになっており、全体的にロー&ワイドといったデザインだ。さらに、車体下面でダウンフォースを発生させるウィングカーとなっており、FN06の1.5倍ものダウンフォースが生じる。それに対し、前走車の乱気流の影響を受けないよう、ある意味空力的に鈍感なようにもデザインされているそうである。デザイン面に関して個人的な感想を言わせてもらえば、ズバリ、合格点。特にフロントウィングが斬新な感じである。テスト走行を見ていても、カーボンブラック地のままなので、色味的には地味だったが、形状的には非常にカッコよく、迫力があった。
また、今回はシャシーだけでなく、エンジンも新設計。V型8気筒(バンク角90度)のレイアウトは同じだが、排気量が現行の3リッターから3.4リッターにアップされる。回転数は10300rpmから10700rpmへ、出力も550馬力から600馬力以上となる。その一方で、最低重量(エアボックスおよびエアフィルター込み)を127kgから120kgまで引き下げる形だ。1エンジンを3レース持たせるレギュレーションとなるほか、回転数を10~20秒の間だけ上げ、短時間ながらパワーアップして、前走車を抜きやすくするというオーバーテイクボタンを搭載することも発表されている。このオーバーテイクボタンについては、観客がわかりやすいようにいろいろと検討中という。現在はドライバーの頭部後方にあるロールバーの周囲にランプが用意されており、オーバーテイクボタンを使用すると点滅したり、転倒している数で残り回数がわかったりという仕組みにする予定だそうだ。
ちなみに、今回の二日間のテストの結果は、金石年弘選手が担当した、ホンダエンジン搭載車の315号車は、1分26秒342をマーク。トップスピードは、303.286km/hをマークしている。一方のトヨタエンジン搭載車の316号車は、アンドレ・ロッテラー選手が担当し、1分26秒852。トップスピードは、302.436km/hだ。ちなみに、今年の第1戦で、LAWSON TEAM IMPUL1号車の松田次生選手がマークした予選ポールタイムは、1分24秒290。シェイクダウンともいえる状態で、このタイムは素晴らしいといえよう。
また、エンジンの優劣については、ホンダエンジンの方がわずかにリードしているようだが、マッチングという面ではトヨタが大きくリードしていた。315号車は、初日はわずかに5周しただけ、2日目も午前中はなかなか走り出せなかったり、走ってきたら数周でピットに入って突貫工事など、テストを担当したTeam 5ZIGENのメカニックらが苦労しているようであった(エンジン担当の無限のスタッフもいた)。ちなみに、316号車はTEAM TOM'Sが担当している。なお、エンジン音の違いなどもチェックしてみたが、バンク角90度のV型8気筒で、レブ・リミットも同じとあって、記者の耳では区別をつけられず。ただし、はっきりと違いがわかったのが、ピットレーン走行時の制限速度をコントロールするための点火を一部間引く、一種のミスファイヤリングシステム作動時のエキゾーストノート。ホンダエンジンは、本当にミスファイヤしているような、ブボブボときれいではない音なのだが、トヨタエンジンはあまりミスファイヤっぽい音がしていないようだった(もしかしたら、たまたま聞いたときにそのシステムを使っていなかった可能性もある)。
金石選手に2日目の最後に話を伺ったところ、「ダウンフォースがかなりある感じですね。2台で連なって走ったりもしたのですが、後方に着いていてもダウンフォースが抜けるという感じはあまりありませんでした。ただ、車幅が随分と広くなってしまったので、その点はどうかな……。ポテンシャルそのものは、まだクルマがどう動くかわからない状態でこのタイムですから、かなりあると思います」という、来シーズンが期待できるコメントを出してくれた。
FN09のスペック。カッコ内は現行車輌のスペック | |
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全長 | 4775mm(未発表) |
ホイールベース | 3000mm(同) |
車輌最大幅 | 2000mm(1800mm) ※車輌中心線からタイヤ外側まで実測で1000mm以内 |
車体最大幅 | 1600mm(1450mm) ※ウィングを除く、ボディワークの最大幅 |
フロントウィング幅 | 1800mm(1450mm) |
リアウィング幅 | 1220mm(1000mm) |
車両重量 | 670kg(666kg) ※ドライバー搭乗時 |
燃料タンク容量 | 115リットル(135リットル) |
ギアボックス | リカルド社製6速パドルシフト(ヒューランド社製6速パドルシフト) |
ブレーキ | PFC社製6ピストン(ブレンボ社製4ピストン) |
フロントタイヤ | 235/55R13(同) |
リアタイヤ | 340/620X13(同) |
安全基準 | 2006年F1に基づく(2002年インターF3000に基づく) |