群馬県立自然史博物館では、淡水域での釣りをテーマにした企画展「フィッシング - 魚の生態と人の知恵 - 」を開催中だ。日本人になじみの深いフナ釣りをはじめ、アユ釣り、渓流釣り、フライフィッシングなどについて、対象魚の生態や釣り具の歴史が分かる展示となっている。また、エサに使う幼虫が成虫となった姿を見ることができるなど、ベテラン釣り師でも目からウロコの展示物が多数用意されている。入場料は一般700円、高校生・大学生400円、小中学生無料。

群馬県立自然史博物館内に設けられた企画展「フィッシング - 魚の生態と人の知恵 - 」の入り口。場内では、魚やエサとなる昆虫の標本、生きた魚が泳ぎ回る水槽、釣り具の実物、歴史的資料や写真など、数々の展示物を見ることができる

腸や骨格の標本が見られる

色々な魚種のエラを比較して、補食しているエサによってエラの構造が異なることが学べる展示物。本物の魚の一部がフリーズドライによって標本化されている

最初の展示は、生息する場所やエサの種類などによって魚の形態が異なることを学べるコーナー。補食するエサによって腸の長さや歯の形、エラの一部の鰓把(さいは)の数が異なることが、標本やパネルなどを使って解説されている。知識として知っている釣り人も多いだろうが、実際の腸や骨格の標本などを目にする機会は滅多にないだろう。

和竿からフライまで さまざまな釣り具がお目見え

釣り具の歴史を紹介するコーナーには、縄文時代に使われたとされる鹿骨製の釣り針や、東日本最古級の古墳から発掘された釣り針状金具などが展示されている。さらには、江戸時代や昭和初期に使用されていた釣り具、現在ではなかなか手に入らない竹製の和竿、漆塗りのウキなども展示されており、釣り具の変遷を知ることができる。

化学繊維が登場する前に使われていた釣り糸「テグス」と、その原料が採取できる蛾の仲間「クスサン」の標本

アユ釣り用や渓流釣り用などの和竿も展示されている。写真はタナゴ釣り用の和竿

釣りの対象となる魚と、その魚を釣るための道具やエサなどを紹介するコーナーもある。水槽で泳ぐ生きた魚やフリーズドライによって標本化された魚、エサとなる昆虫の展示などもあり、釣り人が我が子に魚釣りを解説する最高の舞台となるだろう。フィッシングジャーナリストでフライフィッシャーマンの佐藤成史氏が自作したフライや、実際に使っているタックル、撮影したトラウトの写真なども展示されている。フライフィッシング経験者にとっては、かなり興味深いコーナーだ。

タナゴ釣りを紹介するコーナー。釣り具やエサの他に、詳しい釣り方や魚の生態などを解説するパネルも展示されている

ワカサギ釣りの解説では、氷上の穴釣りをする釣り人が再現されていた

渓流釣りのエサとして使われる「ぶどう虫」の蛹(さなぎ)や成虫の標本。普段は幼虫の状態しか目にしないので、初めて見る釣り人も多いはずだ

水生昆虫とそれを模したフライ(西洋式毛針)を比較した展示

絶滅種や外来魚を学ぶ展示も

秋田県の田沢湖に生息していた「クニマス」。現在は絶滅したとされており、世界に十数体しか残されていないという貴重な標本が展示されている

他にも、日本に生息するサケ科の魚を紹介したり、「クニマス」といった絶滅してしまった魚の記録、外来魚の問題を学ぶことができるコーナーなども設けられている。釣りをもっと楽しむための知識を得たり、避けては通れない環境問題に目を向けることができ、釣りと魚を取り巻く環境を見直す良い機会となるだろう。

全体として、これから釣りを始める子供たちや初心者はもちろん、ベテラン釣り師でも見たことがないような展示物や標本が揃っており、かなり奥の深い内容となっている。同展は、8月31日まで開催されているので、ぜひ親子で、もしくは釣り仲間たちと一緒に足を運んで欲しい。また、生物の進化の歴史を学べる常設展示場には、群馬県立自然史博物館でしか見ることができない恐竜の化石や絶滅した動物の模型などもあるので、こちらも必見だ。

日本産のトラウト類。本州などに住むヤマメやイワナの他に、北海道に生息するオショロコマ、海から遡上するベニザケ、カラフトマスなどの標本が並ぶ

外来魚の標本。釣りの対象魚として人気の高いニジマスやブラックバスなども紹介されている

巨大な恐竜やマンモスの化石のほか、恐竜の化石の発掘現場を再現した展示物などがある常設展示場も見どころ満載だ