新機能が満載された「Acrobat 9」がリリースされ、Flashとの連携やPDFによるリアルタイムコラボレーションなど、オフィス向け機能に注目が集まる中、デザイン、印刷向けの機能にどんなものがあるのかは気になるところだ。そこで、アドビ システムズ、マーケティング本部の岩本崇氏に、Acrobat 9に搭載された機能のうち、とりわけデザインと印刷現場の課題を克服する便利な機能、活用法などを聞いた。

デザイン制作、印刷の現状とPDFにおける課題

アドビ システムズ、マーケティング本部 岩本崇氏

「デザイン、クリエイティブ系、そして印刷業界に共通する課題を見ると、今まで印刷納品で完結していたコンテンツが、オンデマンド印刷やWeb、モバイルなど発信方法が多岐にわたっています。それに伴い制作者にも高いクリエイティブ性が求められるようになりました。また海外の方との仕事など情報のやり取りもグローバルな展開を見せています。こうした状況を受けて短時間で数多くの確認作業に追われる現場ではPDFは欠かせないものとなり、その出力ツールとしてアクロバットが使われています。また、印刷の現場ではデータ入稿にPDFが使われるケースが増えています」

このようにPDFを取り巻く状況を説明する岩本氏に今回のバージョンアップ以前のPDFの課題を聞いた。

「当社の課題としては、従来は完全データにまで仕上げる作業が煩雑だった事実があります。RIPへの処理プロセスも誰もが短時間で処理できるものにする必要がありました。またハイエンドな印刷にとどまらす、カラープリンタやオンデマンド印刷にもPDFを利用したいというニーズが高まっていました。こうした課題をクリアして登場したのが、Mac版『Acrobat 9 Pro、Adobe Reader 9』です」

ファイルをまとめるPDFポートフォリオ

「従来、入稿の終わったPDFは、関係するデータと一緒にフォルダに保存されていたと思います。備忘録としてデータの説明を書き入れたテキストを作成したり、CD-RやDVDメディアなどに焼いておく、データに圧縮をかけてより少ない容量でサーバなどに保存するという作業は現在ごく普通に行われていると思います」

こうした当たり前だった一連の業務を一新する機能が「PDFポートフォリオ」だと岩本氏は語る。PDFポートフォリオは多彩なデータをひとまとまりのデータとして結合してくれる、いわばデータファイルのコンテナのようなものだ。データが圧縮されているにも関わらず、ファイルの中身を確認して取り出せるため、データの再使用や改訂版を作る場合にもすぐに内容を参照できる。しかも1ファイルにまとめられているため、情報の漏れや欠落などの事故を未然に防ぎやすくなるという。

Acrobat 9で新たに搭載されたPDFポートフォリオ

「PDFポートフォリオでは、PDFに表紙カバーやヘッダーなどを付加できるようになりました。この部分に用紙、印刷部数、用途や担当営業、デザイナー、管理者の氏名、注意点などの情報を詳細に記録できます。今までは打ち合わせの相手だけに伝えていた情報なども関係者すべてに確実に伝わりますので、制作上の事故防止にもつながります」

従来のPDFでは複数のデータを統合することはできたが、このようにデータ以外の情報を付加する機能はなかった。さらに付け加えるなら制作者の情報、印刷会社の情報がデータと共に残るため、このポートフォリオが次の仕事へのアピールの材料にもなる。PDFポートフォリオは単にデータの備忘録ではなくセールスツールとして活用することもできるといえるだろう。