米セールスフォース・ドットコム Executive Vice President ジョージ・フー氏 |
米セールスフォース・ドットコムは、コンピュータソフト、サービスの新たなあり方「Platform-as-a Service(PaaS)」を提唱している。同社はこれまで、インターネット経由でコンピュータソフトをサービスとして供給する「Software-as-a-Service(SaaS)」の手法を軸に事業を展開してきたが、「PaaS」はアプリケーションソフトだけでなく、さまざまなソフトを活用するための基盤や、開発環境までをネットワークで提供する。同社が考える、「SaaS/PaaS」戦略とはどのようなものか、また今後、IT産業は、どのように変化していくのか、同社のExecutive Vice President ジョージ・フー氏に聞いた。
--PaaSの目的とは何か?
SaaS(Software-as-a-Service)のリーチを劇的に拡大する手段としてPaaS(Platform-as-a Service)を位置づけている。PaaSは、SaaSを代替するものではなく、SaaSを補完するためのものであると捉えており、相乗効果をもたらすと信じている。我々は日本市場に、さまざまな業種にわたる顧客企業をもっているのだが、当然、各社ごとに活動している市場も異なり、求めるものも違う。しかしPaaSにより、どのようなユニークなニーズがあっても、カスタマイズして、それぞれの企業が本当に必要なものを得えられるようになる。PaaSのないSaaSは不完全な状態であるといえる。そのあたりは啓蒙活動が必要なのだろうと思っている。
--SaaS型でのカスタマイズは容易ではないのでは?
クライアント/サーバ型と、クラウドコンピューティングには、決定的な違いがある。クライアント/サーバ型では、非常に多数の要員がいなければ、保守・運用はたいへん困難になる。しかし、正にPaaSは(複数ユーザーで、システムを共有する)マルチテナント型で展開している。ひとつのコードベースを維持してカスタマイズする部分は、メタデータで保存される。カスタマイズする箇所がどんなに多くなったとしても、それは我々にとって困難な問題ではない。
--Force.com(※注)は、どのような役割を担うのか?
初めてのPaaSとして、Force.comを投入したが、これは大きな意味をもっている。Force.comにより、企業内の開発体制はかえって強化されることになり、技術革新が進み、アプリケーションにも良い影響を与える。Force.comは、いっそうPaaSを推進していくことになるだろう。SalesForce.comのツールをISVにも使ってもらって、さらにユーザー層を増やすのがねらいでもある。Force.comには、9万人以上の開発者が集まっており、(オンデマンド型アプリケーションの共有基盤である)Appexchangeには、800を超えるアプリケーションがある。これらの多くは日本語でも稼動するし、すべてのアプリケーションは日本語対応が可能だ。セールスフォースでは、このように選択肢の数が多いのだが、PaaSによりさらに増えることになるだろう。
(注)同社は「PaaS」の思想を具体化するものとして「Force.com」と呼ばれる、プラットフォームを用意している。「Force.com」は、データベース、開発環境、既存環境との統合機能、ユーザーインタフェースなどを備えており、これらはすべて"サービス"として提供される。同社では、「Force.com」を利用することにより、企業は、ソフト開発を著しく効率化できる、としている。
--クラウドコンピューティングと、SaaSやPaaSは何が異なるのか?
まず、全体の大枠として、クラウドコンピューティングがあり、その構成要素として、SaaSとPaaSがあるといえる。クラウドコンピューティング自体が依然、初期の段階にあるため、用語の定義は固定していない面があるが、クラウドコンピューティングという発想そのものがたいへん重要だ。定義は定まっていないものの、インターネットを通じて、ローカルでは事実上、ソフトばかりかハードももたず、アプリケーションを利用でき、メンテナンスもチューニングも自分ではする必要がない、との構造はおおむね決まっている。
--SaaS/PaaSの中長期的な見通しは?
企業というより、業界そのものを10年くらいの単位での視点でみると、中心となるテクノロジーの変遷は、時間の経過とともに波が繰り返しやってくるようなものだ。たとえば、クライアント・サーバ型モデルは、およそ20年間かけて、メインフレームに取って代わった。いまは、クライアント/サーバ型から次の潮流への移行の中間過程といったところであり、これもほぼ完全な交代には、20年くらいかかるだろう。ソフトウェアの進化でいえば、古いアプリケーションのパッケージ化がSaaSに相当し、カスタマイズ化がPaaSに相当する。これから先、長期的には、PaaS型のほうが大きくなっていくだろう。