東京ビッグサイトで開催中のワイヤレスジャパン 2008の基調講演で、イー・モバイルの代表取締役社長兼COOエリック・ガン氏が登壇。2007年の開業後、順調にビジネスを拡大している同社の戦略について語った。
イー・モバイルといえば、昨年3月に実に13年ぶりとなる携帯電話の新規参入を果たし、まずはデータ通信からサービスを開始し、今年3月には音声サービスも開始した。開業時に4,000億円近い資金を調達し、黒字化までの資金を最初から確保していた。
「ゼロからスタートして(約4,000億円の)資金調達は国内だけでなく、世界でも最大ではないか」とガン社長。3Gでは初めてのPC向けデータ定額、3G初の24時間音声定額、ADSLを無料にセットしたFMCサービスなどを他社に先駆けて提供してきた実績がある。
国内の携帯電話契約数が1億を突破し、伸びが鈍化している市場だが、ガン社長は「日本は携帯先進国ではない」と指摘する。日本の普及率を約80%とした場合、例えばルクセンブルクは普及率が150%以上であり、英国でも116%程度の普及率となっており、「1人2台以上」の普及率となっている。「日本は普及率で世界第50位」(ガン社長)。
ガン社長は国内市場はまだ伸びると見ており、11年には100%を突破。12年3月には107%程度にまで達すると予測する。08年3月の時点と比べて2,800万以上新規加入があるという計算だ。音声向けでは1人1台に近い普及になったが、ガン社長はこれから新しい需要が出てくると見る。
それがデータカード、スマートフォンなど、2台目需要だ。海外のようなプリペイド携帯は国内では普及していないが、端末所有だけなら無料で、使いたい時にネット経由でチャージするようなプリペイドタイプのカード端末などは普及する可能性はあるという。
イー・モバイルでは、ほかの携帯電話やPHSのデータ通信、公衆無線LANとの違いを明らかにして新規ユーザーを獲得していく考え。公衆無線LANでは、より広いエリアでの高速通信、携帯・PHSに対してはより安価な料金を売りにする。
公衆無線LANに比べて広域をカバーするイー・モバイルは、今年6月末時点で人口カバー率は85%に達した。音声向けには90%以上のカバー率が必要だというが、データ通信向けには十分なレベルに達した。東北などの一部地域ではカバー率が5割に達していないが、今年秋には各都道府県でカバー率70%を達成する計画だという。
イー・モバイルの回線は、固定系のような使われ方もしているようで、ガン社長はイー・アクセスのADSL 12Mbpsのサービスとトラフィックを比較し、日中はイー・モバイル回線の方が若干トラフィックが多いが、ほぼ同様の使い方がされていることを示した上で定額で高速のサービスを出せば固定系と同じように使われると指摘する。「将来はADSL(の利用者)が携帯にくる可能性もあるのではないか」(同)。
もちろん、現在の下り最大7.2Mbpsの通信速度から増速も図り、HSUPAで上り速度を増速させ、W-CDMAの追加仕様であるeHSPAで「だいたい40~80Mbps」(同)のサービスは提供できるようになるという。これならば設備投資は最小限ですみ、「2年以内に登場してくる」(同)見込みだ。
これ以上の速度を望む場合は、「新しい周波数をもらって」(同)3.9GのLTEを導入し、150Mbpsのサービスも出てくると見る。
このように、イー・モバイルの基本スタンスはデータ通信だ。データ通信料を他社と比較すると、月額料金は最低1,000円からで、どんなに使っても上限は4,980円の定額制。しかし、他社の場合はこの最低料金が4,000円以上で上限が7,000円前後だったり、PHSも3,880円の定額制はあるがISP利用料を含まないといった状況だとして、ガン社長は競争力の高さを強調する。
音声に関しても、月額基本料なしならば他社携帯並みの30秒18.9円だが、月額980円の定額パックを導入すると、固定向けには30秒5.25円、他社携帯向けには30秒9.45円の低価格を実現した。
1分あたりの通話料を比較すると、他社は固定向けも携帯向けも40円だが、イー・モバイルでは携帯向け18円、固定向け10円と価格を抑えた。この携帯向けの18円も、他社に接続するアクセスチャージが高いためだそうで、「本当はもっと安くしたいが、これが限界」(同)だという。
ちなみに、日本の携帯料金は「基本料金は下がっているが、通話料はずっと一緒。世界で一番高い」とガン社長は指摘。日本の携帯での音声トラフィックの平均は月150分で、米国は800分以上、香港は700分となっているそうだ。通話料の高さがこの差を招いているというのがガン社長の主張だ。「従来の音声携帯マーケットで差別化できるのは料金だけ」とガン社長は話し、低料金での音声マーケットのシェア拡大も狙う。
実際の契約数は、「3カ月で2倍」(同)の形で伸びているという。昨年末の7.2Mbpsの高速通信サービス開始と人口カバー率50%達成したあたりから伸び率も上昇し、今年6月には60万加入を超えた。
この時点で、全契約数のウチのシェアは0.4%程度だが、ガン社長は新規ユーザーのシェアを重視する。市場全体の純増数に占めるイー・モバイルのシェアは順調に伸びており、今年3月には純増シェアで10%を確保し、今年第1四半期には平均して20%のシェアとなったという。
「今年1年では純増数のウチ15~20%のシェアを確保したい」(同)。