22日、都内にて開催された「第30回ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)内で行われた映画講座に松岡錠司監督が登場した。松岡監督は、第31回日本アカデミー賞において最優秀監督賞をはじめとする主要部門で5冠を獲得した『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(2007年)、立川志の輔の新作落語が原作である『歓喜の歌』(2007年)などで知られている。松岡監督の第4回(1981年)PFF入選作『三月』がリバイバル上映された後、松岡監督自ら撮影当時のエピソードを披露。映画監督を目指す若者にメッセージを届けた。
被写体に恋する気持ちが作品を高める
『三月』は8ミリで撮影された45分の作品。故郷を離れ、東京の大学に進学する先輩に思いを寄せる1年下の女子高校生の、リアルな表情や会話が描かれている。本作には、当時高校生だった本人も出演。「目をつむって観て欲しい」と照れ笑いする松岡監督は、どういうきっかけで『三月』を撮ったのだろうか。
「僕は映画ファンでも映画マニアでもない、普通の高校生でした。でもエネルギーを発散したかったのか、とにかく何かをやりたかった。それで同級生を巻き込んで、映画を撮ることにしました。当時、僕の周りで映画を自主制作している人がいなかったので、それは僕の中で大きかったですね。自分が最初にやっているという高揚感がありました」
「主役を演じた女の子に恋心を寄せていたというのは本当ですか」と客席から問われた松岡監督は、照れながら「それが一番の動機でしょう」と答え、こう続けた。
「今日は主演の女性本人も観に来てるから触れないようにしてたのに……。でも高校生が映画を撮りたい理由なんて、大体そういうもの。今の若い男が女にモテようとビデオカメラを手に持つ気持ちは手に取るように分かる。ただ、映画監督になった今だからこそ言える。そういう恋する気持ちを持って被写体に向かうことが、作品の質を高めるんです」