「温泉とスパは違いますし、スパは"エステ"でもありません」。これが『スパ&トリートメント(飛鳥出版刊)』編集長の西尾直樹氏の、セミナー開口一番の言葉だ。16日より東京ビッグサイトにて開催されている業界向けの展示会「スパ&ビューティ2008」で行われたセミナー「日本のスパI ~現状と可能性」では、同氏による日本におけるスパの現状と可能性が語られた。
日本におけるスパの歴史
「スパ」というのは元々ヨーロッパの文化だ。同氏によると「人間が持つ自然治癒力を水やお湯で高め、心身を癒すことが目的」で、「土地の力、自然療法を生かした伝統的な健康回復、増進のための療法」が本来のスパの定義だそうだ(現代はこれだけではない)。そうしたスパが日本に流入してきたのは約10年前だという。さらに氏は話の中で、スパの歴史を説明した(下記のデータは資料参照)。
日本のスパの歴史
1997年―日本のスパの幕開け
タラソテラピー勝浦、万葉の湯(スパかどうかの議論はさておき)がオープン、その後スーパー銭湯ブームに
2003年―スパ拡大期
マンダラスパやラクーア、大江戸温泉などが相次ぎオープン
2004年―外資系高級ホテルがイメージを作る
マンダリンホテル、ザ・リッツ・カールトンなど超高級外資系ホテルがスパを導入しイメージリーダーに
2005年―コンセプト輸入型スパの相次ぐ苦戦
2003年に参入したスパ施設の撤退や廃業も始まっている
現在―勝ち負けの格差拡大
このように、10年という比較的浅い歴史にも関わらず、早くも撤退や廃業のスパ施設がみられ始めているという。この点について同氏は「旅館やホテルなどで導入する際に、スパとエステを混同したり、スパと温泉を織り交ぜて使用していたりと、日本マーケットに対するズレがある」と指摘。さらに「女性はレストランなどでも新規開拓をする傾向がある。スパもリピーターにならず、1回のみの利用となってしまう場合が多い。それはなぜか。ダメなところにヒントがある。また男性へのスパ喚起も低い」と日本のスパの現状を厳しく批判する一面もあった。
なぜ日本で"スパ"が求められるようになったのか
温泉も鍼などのマッサージもある日本にそもそもなぜ"スパ"が求められるようになったのか? 同氏はIT化による作業効率の著しい向上や女性の社会進出など社会事情との関係性をあげた。「編集の仕事で言えば、手書きで原稿を書き、写植を用いた工程から、ワープロの登場に始まりPC、メール・携帯の普及で作業のスピードは倍以上になり、結果として仕事量も増えた。また雇用形態の変化や女性の社会進出、治安悪化や社会管理の厳格化などにより人々がスローフード、ロハスの方向へ流れ、"癒し"を求めるようになったといえる」。同氏は他にも、"メタボ健診"や"医療費の削減"など自己管理を促す健康の捉え方や熟年夫婦、母娘の旅行など消費マーケットの変化も起因しているという。話を聞いていると、もはや現代の流れが"スパ"を必要としていると言っても過言ではない気になる。
スパの文化×日本の文化 - アレンジが"スパ"の個性を創る
では、どうして廃業や撤退という状況に陥るのかというと、「日本という1国による独特の文化を理解せず、そのまま"スパの文化"を入れてしまうからうまく社会に流入できていないのでは」と同氏は続ける。
「日本には古来から"Hot spring"ではない"温泉(onsen)"という文化、鍼やお灸といったマッサージの文化があった。さらに"エステ"に関してもすでに十分認知されている。一方で、スパもヨーロッパの中で醸成された歴史を持っている。日本で、温泉ともエステとも違う"スパ"の歴史をどう定着させるか。それは単にスパの歴史ごと持ってきては根付かない。日本独特のアレンジ、旅館・ホテルなりのスタンスを加えることがスパを根付かせ、スパの個性を創るのではないか」。この同氏の発言は、"日本というマーケットに何が合うのかを見据えろ"という苦言を呈した形となったが、日本でのスパの定着を期待しているからこそ言えるものだろう。同氏は最後、スパの今後に関して「まだまだ市場としては大いに期待できる」と述べ、今後の業界関係各社による"個性"の打ち出しこそがスパブームを牽引すると訴えた。
まさに"日本のスパの現状"が明確に語られた「スパ&ビューティ2008」でのセミナーだったが、同展示会ではこうしたスパの成功の秘訣や今後を指南するセミナーのほか、業界向けにスパ施術に取り入れて欲しいサプリメントや化粧品からスパ施設のトリートメント用設備、酸素カプセルや"スパミュージック"と題したスパのためのヒーリング音楽が一堂に展示・紹介されていた。出展ブースの数は少ないがどのブースもこれからのスパ定着に各企業が必死に取り組んでいることが窺えた。同展は18日まで開催、入場は無料。