フットワークを向上するゲーミングキーボード

蝶のように舞い、蜂のように刺す。対戦射撃ゲームのプレイヤーなら、こんな常套句が似合うほど華麗に立ち回りたい。そんな願望に一歩近づくキーボードが登場した。DHARMAPOINTがリリースした「DHARMA TACTICAL KEYBOARD」だ。外観はごく一般的なテンキーレスのミニキーボードで、ゲーム用のホットキーがあるわけでもない。いったいどこがゲーム用なのかと思う。しかし、触ってみるとすぐに分かった。アクションゲームファンならこの操作感の虜になるかもしれない。

「DHARMA TACTICAL KEYBOARD」。外観は一般的なテンキーレスキーボードだ

付属品。交換用キートップ、キーストッパー、キー取り外し冶具

"思いのままに動く"とはこういうことだ。

理屈は後回しにして、まずは独特のプレイ感覚を説明したい。テストで遊んだゲームはFPS(一人称視点射撃)の「チームフォートレス2」と「ハーフライフ2 エピソード・ワン」だ。チームフォートレス2はオンラインで対戦するチーム戦。ハーフライフ2はシングルプレイだ。重力や作用、反作用をリアルに再現する独特の物理エンジンを搭載しており、プレイヤーの操作が的確に反映される。どちらもキーボードてキャラクターの移動を操作する。[W][A][S][D]キーが前後左右、[Space]キーがジャンプ。左[Ctrl]キーが"しゃがむ"などである。右手はマウスを操作し、プレイヤーの視点の動きと連動する。マウスの左ボタンが銃の発射だ。ほとんどのFPSで採用された方式である。

操作した第一印象は"速い"だ。動きたいと思った瞬間にキャラクターが動いている。普段筆者が使っているキーボードよりも一拍早いレスポンスだ。かなり身軽になって気がする。大げさな表現だと思われるかもしれないが、これは以下のような状況で実感できる。

例えばチームフォートレス2で狭い通路を走り抜けるとき、曲がり角で手前の壁に引っかかることがたびたびあった。「ここで曲がろう」と思った瞬間に曲がるので、タイミングがコンマ何秒か速くなる。従来は曲がろうと思ってからキーを押すという認識があって、それから曲がる。その認識のタイムラグを含んで操作していた。

しかしDHARMA TACTICAL KEYBOARDではそのタイムラグがない。だから曲がるタイミングが早すぎる。ちょっと戸惑ったが、1時間ほどでその感覚に慣れてくると、今度は動きやすく疲れにくくなった。いままではタイムラグを常に考慮して操作していたが、その精神的負担が軽くなったということらしい。

しばらく遊んでいると、画面と自分の動きが一致してきたせいで、画面の中に吸い込まれるような感覚になる。そして敵に撃たれる回数が減った。いままでは危ないと思ったら確実に撃たれていた。しかし敵の姿を認識し、「危ない」と思った瞬間に回避できる。ちょっとだけ逃げやすくなったのである。筆者の場合は撃たれやすいプレイ、つまり弱いのでこんな感覚になるが(笑)、上手な人なら「ターゲットを追尾しやすい」、「命中率が上がる」という感覚になるだろう。

ハーフライフ2では、冒頭に崖際の細道を進む場面がある。ここでもレスポンスの速さゆえに何度も落ちそうになりヒヤヒヤした。ところが上手くできたもので、「落ちる! 下がらなくちゃ!」と思った瞬間に後ずさりできるから、結局は助かった。ゲームプレイの結果は同じかもしれないが、DHARMA TACTICAL KEYBOARDで遊んだほうが面白い。そう、面白いのだ。これはとても大事なことだと思う。

静電容量型スイッチ機構と30グラム加重設計

「動きたい」と思ったらすでに動いている。その操作感の理由は、DHARMA TACTICAL KEYBOARDの構造が一般的なキーボードとはまったく異なる"静電容量型スイッチ機構"を採用しているからだ。思いっきり簡単に説明すると、スイッチの両側の電極を静電気で帯電させておき、電極が接触しなくても、近づくだけで電流を流す仕組みである。この方式は電極間にほこりが入っても動作するという理由で、かつてIBM PC/ATのキーボードで採用されていた。つまり、昔からある仕組みだ。

一方、現在の一般的なキーボードは電極を接触することで電流を流す。こちらも原始的なスイッチだ。スイッチが直接接触するだけに確実な動作が期待できる。ただし電極間のホコリがネックだった。そこで薄い膜でスイッチ部分を覆う方式が考案された。ホコリ対策ができてからは、静電容量式よりも安価に製造できる。ほとんどのユーザーはキーボードに対して性能を気に留めない。PCメーカーも、なるべくコストを下げたい。だから現在は接触型が主流である。

静電容量型と接触型は、キーを押す深さの違いとなって現れる。静電容量型はキーの動きを察知して動作し、接触型はキーを下まで押し下げて動作する。つまり、接触型のほうは深く押す必要があり、押しっぱなしを防ぐために反力が大きい。押すときに何かを乗り越えるようなペコンという感触がある。一方、静電容量型はキートップがちょっと動くだけでいい。DHARMA TACTICAL KEYBOARDの場合、キーの高さを維持するバネも30グラムと弱いものになっている。だからほとんど指を乗せただけで反応し、レスポンスの速さとなる。とくに小指で左[Ctrl]キー(しゃがみ)、左[Shift]キー(忍び足)を押すときに力を入れずに済むので助かる。

ゲーマーのための細やかな配慮

DHARMA TACTICAL KEYBOARDには、他にもゲーマーのために仕掛けを用意している。傑作は付属品の"キーストッパー"だ。これはキーの裏側にかませる板である。ゲームには不要、かつ誤動作の原因となるキーの動きを物理的に止めてしまう。例えば[Windows]キーはゲーム中に押すとフルスクリーン状態が解除されデスクトップに戻ってしまう。だから多くのプレーヤーはこのキーを取り外してしまう。しかし、ゲームのために取り外すと、今度はその隙間からホコリなどが入る原因になる。

キーストッパーで任意のキーを無効化できる

キーを取り外す冶具も付属

ゆえにDHARMAPOINTは、「キートップを固定してしまおう」と考えたらしい。他のゲーム用キーボードのように[Windows]キーを載せないという判断もあったと思うが、これはユーザーの好みに委ねたということだろう。キーストッパーは3つ付属しており、変換キーや無変換キーなど任意のキーを固定できる。作業のためにキーを取り外す冶具も付属する。ただし、何度も失敗するとキーの縁にこすれたような傷がつく。時計用小型ドライバーや模型用ピックなどを使ったほうがいいかもしれない。

もう1つの特徴として、キーの配置をディップスイッチで変更する機能がある。[Ctrl]キーを[CapsLock]キーに、[ESC]キーを[半角/全角]キーに変更でき、交換用のキーも付いている。ゲームのキーアサイン機能で実現できそうだが、常用するならこの方がゲームごとにセッティングしなくて済むから便利だ。

キーの交換前/交換後

ディップスイッチでキーアサインを変更できる。

このほか、滑りにくい表面やチルト状態用のゴムストッパーなど細かい仕上げが施されている。外観は地味だが、操作性には充分すぎるほど配慮された製品だ。市場価格は2万円以上で、接触型の安価な製品の価格からすれば超高級品である。ゆえに数千円程度の製品をおススメする感覚で「試してほしい」とは書きにくい。しかし、前述のようにDHARMA TACTICAL KEYBOARDを使ったプレイはスコアに貢献するし、ゲームを楽しくしてくれる。道具はかくあるべしという見本のような製品だ。

平置き状態とチルト状態

ゴムストッパーは、平置きとチルトの両方に対応する