エンタープライズ戦略におけるAIRの位置づけ

Adobe AIRのロゴ

一般のインターネットユーザーからするとアドビといえばFlashやPDFなどのコンシューマ向け製品を作っている会社といった印象が強い。しかし近年ではLiveCycleシリーズを中心としてエンタープライズ分野に対す製品ラインナップを充実させており、それらをRIA技術と連携させることによる「エンタープライズRIA」の実現も推進している。このような同社のエンタープライズ戦略においてAIRはどういった位置付けになるのか、太田氏に聞いた。

「まず何らかのサービスがインターネット上にあり、それをユーザーが使うためのフロントエンドがAIRです。アドビの提案は、AIRを使えばこれだけ早く、効率よく、コストも安くリッチなインタフェースが実現できますよできますよということなんですね。なのでバックエンドは実は何でもいいのです。ただしアドビではLiveCycleやFlash Media Server、Flash Media Rights Managementなどのサーバ製品も揃えており、AIRはそれらの製品との相性が非常にいいので、これらを組み合わせることで大きな効果を発揮することができるということです」

AIR自身はRESTやSOAPなどといった標準技術をサポートしているため、一般的なSOAアーキテクチャにも対応している。その中でアドビの持つサーバ製品群を使うことのメリットを出していき、AIRと一緒に広めていきたいという考えだ。

ゼロサムゲームではなく共存できることが大事

AIRということで気になるのは、やはり競合する他社のRIA製品との関係だ。代表的なものとしてはMicrosoftの「Silverlight」が挙げられる。また、Sun MicrosystemsもJava技術をベースとした「JavaFX」を発表している。これに対して太田氏は、「どの技術もRIAに対して最終的に解決したい問題は同じで、アプローチが少しずつ違うあるだけ」だと指摘している。

たとえばMicrosoftの場合は、単一言語でフロントエンドからバックエンドまで繋げられるということをメリットとして挙げている。Sun Microsystemsの場合はまだJavaFXの実装がないのではっきりとしたことは言えないが、JavaFX MobileやJavaFX TVなど、Java ME/SE技術を活かしたモバイル分野へのアプローチを強めていく模様だ。それに対してAdobeのアプローチは、「フロントエンドに長けた開発者やデザイナーに対してサーバにアクセスする手段を提供する」(太田氏)というものだという。

「目指すものが同じならば選択肢がある状況はむしろ好ましいこと。ゼロサムゲームではなく共存できることが大事です。シェアがどうこうということよりも、お互いにWebデベロッパにとって有用なものを作ることで、イノベーションを促進できたらいいと思います。もちろん、その中で弊社のものが一番だと言ってもらえるように努力していきます」

ライバルはFirefox?

競合する技術としてもうひとつ興味深いものに、Webブラウザ技術の進化がある。AdobeがAIRによって目指したのは、Webブラウザの限界を突破するということだ。フロントエンドをWebブラウザに頼らなければいけなかったことで生じていたさまざまな問題を、同社はAIRによってブラウザから脱却することで解決した。一方でWebブラウザ側の技術も進歩しており、現在仕様の策定が進められているの「HTML 5」では、Webブラウザの枠組みの中でRIAを実現する仕組みの導入も検討されている。

これに対して太田氏は「WebブラウザだけでRIAが実現できるならばそれに越したことはない」としながらも、「『今』、それをやるためにはAIRのような新しいプラットフォームが必要」だと強調している。とはいえAIRもWebKitという形でWebブラウザ技術をフォローしており、もしWebブラウザが進化すればそれはAIRの進化にもつながっていくだろう。

Webブラウザを飛び出すアプローチと、Webブラウザの中で実現しようとするアプローチ、異なるアプローチがあることは非常に興味深いと思う。それがイノベーションを加速させるならば、ユーザにとっての大きなメリットだと言える。

Adobe AIRで開発された国産アプリケーションがずらりと並ぶ「AIRギャラリー