実際にさまざまな機能を使ってみると、quanpの目的が単に「ファイルの倉庫」ではないことが感じられる。閲覧したりコミュニケーションしたり、あるいは溜めたファイルを眺めたりするといったように、ファイルを保存したうえで何かするという使い方を想定しているようだ。quanpがなぜこの形でリリースされたのか、リコーの担当者に話を聞いた。
写真、書類、多くのファイルたち……それはライフログ
Webサービスでありながらクライアントソフト「quanp.on」を使い、インタフェースには他の同種サービスにはない遊び心が見られる。その理由は何なのだろうか。リコー MFP事業部 CPS-PT シニアスペシャリストの鈴木弘之氏は、「サービスのコンセプトが伝えにくくなると、(quanpが)他の多くのオンラインストレージサービスに埋もれてしまうのでは」という危惧があったと話す。
quanpが目指す先は、単に"安全なファイル保管サービス"というだけではない。それでは独自性を打ち出せない。quanpのコンセプトを明確に示すためにも、まずはそれを体現するビジュアルが必要だった。一見して、他のサービスとは異なる印象を受けるUIは、そうして生まれた。
quanpのコンセプトは、ポータルサイトに掲載されている"file your life."という言葉が示している。写真やドキュメント、メール、スケジュール帳など、生活のさまざまな場面で使われるファイルは、その人の行動にひもづけられている。quanpとはつまり、ファイルの蓄積は人生の記録に似たものになるのではないか、という考え方を具現化したサービスなのだ。ファイルが重なりあって並ぶ空間をタイムラインで移動する操作は、記憶をたどる感覚にもたとえられるだろう。quanpはある意味、最近聞かれる"ライフログ"にも近いのかもしれない。そのことを声高に押しつけないまでも、このUIから何かを感じてほしい、またはもっと単純に「楽しいから使い続けてほしい」(同氏)。使い続けた結果、意識しなくても人生の記録が蓄積されているのがいちばん良い、という。
コンシューマ向けの無料オンラインストレージが一般的の中、あえて有料プランをサービスの中心に据えたことも特徴的だ。お金を払うというハードルを設けることで、quanpを「クリーンさを保って成長」(同氏)させたいという。怪しげな広告が多い、知らない人からメッセージスパムが来る、そんなサービスでは、大事なファイルを長期間保存したり、家庭や職場で共有したりするには抵抗がある。
無料にして多くのユーザーを受け入れるのではなく、あえてお金を払って、長期にわたって大事なファイルを預けたいと考えるユーザーに対して安心できる環境を提供するわけだ。わざわざクライアントソフトをインストールさせる点も、有料であることと並んでひとつのハードルでもあり、なにかと脆弱性の多いWebブラウザを使うよりも安心感を与えるかもしれない。
とはいえ、現状のquanpがサービスの完成型というわけではない。先に述べたように現実的な利便性のためにWebブラウザ対応のβ版も公開した。クライアント版はWindows XP/Vistaでしか利用できないが、Webブラウザ対応版であれば、Mac OS Xなどでもquanpを体験できる。また、携帯電話への対応を検討しているなど、利用環境や活用シーンを広げることには積極的だ。動画やプレゼンの再生など、ユーザーの声を活かして新機能を搭載したquanp.onの次期バージョンも開発が進んでいるそうだ。
単なるオンラインストレージではない
ユーザーにとってquanpは、純粋にファイル保管としても使えるし、ファイルによって日々を記録できるサービスとしても使えるものだ。いずれの使い方でもファイルをアーカイブしていくわけだが、それでも他のストレージサービスと異なる点は、この電脳空間のようなインタフェースに自分の"メタ記録"が見られるかもしれない、ということ。記録(ファイル)を蓄積し続け、立体的に並んだ昔のファイルを眺めつつ、「小さい企画だけどずいぶん必死にやってたな」とか「このときモノクロ撮影にやたら凝ってたな」といった感慨を抱くこともあるだろう。"file your life."というコンセプトを起点に、これからサービスがどう成長していくのかという見方も、quanpの面白さだと言える。