植字作業が終わったら、版をならす「組みつけ」へ。ゴムハンマーと当て木を使い、活字が平面になるようトントンと軽く叩く。それが済んだら版をインストラクターの方が印刷機に取り付けて完了。印刷機は赤色でかわいいイギリス・アダナ社製のホビー向け活版印刷機。ホビー向けとはいえ、活版印刷の基本的な仕組みは業務用のものと変わりない。印刷機のハンドルを自分で操作して、インクローラーにインク付け、活字にインク塗布、活字と紙を圧着させて印刷、という工程を行うのだが、ハンドルの上下操作に多少コツがいるだけで作業自体は難しくない。むしろ機械的な動きが見ていて面白い。
試し印刷をして問題なければ、いくつかデザインが用意された一筆箋を6枚選んでいよいよ本番印刷となる。自分が文撰、植字をした活字で刷り上がっていくのは感動の一言。印刷された文字は、思いがけないほど美しく、活版印刷独特の風合いが嬉しい味わいに仕上がった。
デジタルでの印刷が全盛の今こそ、活版印刷を体験して欲しい
活版印刷はこうして多くの工程を経て、やっと刷り上がる。今回はあくまで体験なので作業を楽しむことができたが、数十年前まではこれが印刷の当たり前の光景だったと思うと感慨深い。活版印刷から写真植字、DTPへと印刷の世界は変遷しているが、日本語で組版するという思想そのものは、活版印刷での職人の知恵、こだわりが受け継がれているのではないだろうか。「印刷の家」での活版印刷体験は、そうしたことをインクの香り、活字の手触りを通して理屈抜きで教えてくれるように感じた。
次回レポートでは、インストラクターの方による活版印刷全盛時の話や、印刷博物館の展示品などについてお届けしよう。