経済状態の悪化がスパムメールの増加を招く
原油高騰やサブプライム問題から、世界経済は減速局面にあるとはよく指摘される。2008年5月に送受信されたメールのうち80%がスパムメールであり、さらに世界経済の停滞とその影響が、スパム攻撃者の標的となっている。かつて、シマンテックは、経済情勢がスパム市場を活性化させると報告した。2008年6月に至る今でも経済の低迷に乗じて個人情報を収集するスパム攻撃者の動向に注目している。米国では、住宅所有者の不動産債務軽減とクレジットの信用評価に与えうるマイナスの影響回避を「助ける」ため、不動産差押えローンの救済を促している。そこで、スパム攻撃者は、エンドユーザを巧みにWebサイトに誘い出し、メールアドレス、電話番号、不動産ローンの残高を入力させるようとするのである。
さらには、原油高騰の影響で、ガスや燃料関連のスパムメールが増加も確認されているとのことである。これらの攻撃には、無料のガスやガスカード、そして1ガロンあたりのマイル数を増やすような情報を送付し、それによってガス代負担を減らすることができると装ったものや、最新の事例としてはスパム攻撃者が、特定の装置を用いて、自家用車に給油するガソリンの代わりに水を使用すれば、ガソリン代負担を減らすことができるといったものまで存在するとのことである。実際に以下のようなmailが届く。
ガソリンの代わりに水? 冗談を言っているのか? いいえ違います。ガソリン、ディーゼル、トラック、スクールバスを問わず、使用できます。誰でも簡単に設置できるシンプルな装置を使って高価格の燃料代負担を減らしたいとお考えの方は、http://xxxx.water4gas.xxxxx <http://xxxx.water4gas.xxxxx/>
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一見すれば、まったく信用に値しないような内容である。しかし、このようなスパムメールは、昨今の経済状況において、絶大な効果を発揮しており、貧窮する人々を犠牲にしている。
自然災害も攻撃者には格好の標的
ミャンマーで発生したサイクロン被害や中国四川省で起きた大地震を受けて、次々と各国のからの援助が行われている。ここにもスパム攻撃者は登場する。攻撃者は、この機会を決して見逃していないのである。過去数週間で、これらの災害に関連したスパムメールが確認されている。最近の地震募金メール詐欺は、中国の被災者への募金を集めている。スパム送信者は、正当なWebサイトを利用し、ルートドメインの下に詐欺サイトのリンクを仕込み、ユーザーがスパムメールに記載されているURLをクリックすると、詐欺サイトにリダイレクトされ、募金を求められる仕組みである。
ミャンマーで起きたサイクロン被害でも同様の事例が報告されている。サイクロン発生後4、5日間で、チャリーティスパムメールは「419スパム」(ナイジェリア発の詐欺スパム。信用詐欺を禁止するナイジェリア刑法の条項番号に由来)のように急増した。このように、世界情勢や経済状況を利用したスパムメールが、世界中を飛び交っているのが現状といえる。普段ならば理性的な判断が可能な人々も、善意の行使やみずからの貧窮という環境に置かれることで、正しい判断しにくくなっているのである。
チャンピオンズリーグ最終戦チケット詐欺
世界的なイベントを悪用した事例も報告されている。2008年5月21日、モスクワ開催されたサッカーのチャンピオンズ最終戦での、できごとである。この試合のチケットの需要は、ヨーロッパ全土にあり、スパム攻撃者はこの機会を見逃してはいなかったのである。
スパム攻撃者は旅行代理店を装い、試合のチケットを獲得するための「ユニークな機会」が存在するとのスパムメールを送り付ける。チケットを購入したいユーザーは、リンクをクリックし、個人情報を入力してしまう。その後、ユーザーは手続きを完了するために、合法的な支払いサイトに誘導される。そこで、チケット代金を支払う。
ここからが、問題となる。スパム攻撃者はチケットを受け取るためには、ユーザー自身のメールアドレス、ニックネーム、オンライン支払いの受領書をメールで送るように指示するのである。しかし、チャンピオンズリーグ最終戦の合法的な支払いサイトでは、オンライン支払いの受領書番号を絶対にメールで送ることはしないようにとされている。ここでも、ユーザーの意識を利用した巧みな手口が使われているのである。
今年の夏には、北京オリンピックが開催される。中国では、脱税する目的とした非合法の請求明細書提供というスパムメールが多数報告されている。これまでに検挙数は2,963件にのぼり、1,917人の容疑者の拘留、1,051万枚の偽造請求書没収が当局によって行われたとのことである。中国の多くの攻撃者が、北京オリンピックを標的にすることは、十分に予想される。今後、よりいっそうの注意が必要である。