NVIDIAがモバイル向け新GPU「GeForce 9M」シリーズを発表した。内蔵GPUと外付けGPUを連動させるマルチグラフィックス技術「Hybrid SLI」をサポートする。COMPUTEX TAIPEIにて開催されたプレス説明会の内容から、同製品の情報をまとめたい。
Hybrid SLIでは、内蔵/外付けのマルチGPU構成において、グラフィックスパフォーマンスを最優先しGPUを協調動作させる「GeForce Boost」と、消費電力の効率を重視し場面に応じて外付けGPUか内蔵GPUのどちらかのみを動作させる「HybridPower」の2種類の異なる動作モードを提供する。従来はデスクトップ環境向けにのみ対応製品が発表されていたが、今回の新製品によりこれがモバイルでも利用可能になるのだ。
モバイルノートでもHybrid SLIが利用可能に。というか、どちらかと言えばモバイル向けでの利点の方が大きいような技術だ。右の写真は実機で現在の動作モードを表示しているところ。設定のインタフェースなどはモバイル版でもデスクトップ版とほとんど同じだった |
NVIDIAがアピールするGeforce 9Mシリーズの特徴は以下の通り。
- Hybrid SLI技術を利用することで、バッテリライフを最大50%延長、もしくはグラフィックス処理能力を40から80%向上。
- GeForce 8Mシリーズとの比較では、グラフィックス処理能力が最大40%向上。
- 新しくなった「PureVideo HD」により、最新のBlu-ray Profile 2.0とBD-Liveをフルサポート可能。
- GPUマルチコアアーキテクチャで、ゲームだけでなく、写真編集ソフトなどの対応アプリケーションも高速化。
- DVI、HDMI 1.3、Display Port 1.1、VGAといった幅広い出力。
- MXMバージョン3.0のグラフィックス・モジュール仕様をサポート。
Blu-RayのBD-LiveもOK。ハードウェアでDual Streamのデコードアクセラレートが可能なので、PinP表示でも低負荷 |
最新のMXMバージョン3.0サポートにより、すばやく柔軟な製品投入ができるといったノートPCベンダのメリットを強調 |
GeForce 9Mシリーズのラインナップは多岐にわたり、加えて各モデルの仕様が少々複雑になっている。ラインナップはハイエンドが「GeForce 9600M GT」「GeForce 9600M GS」「GeForce 9500M G」、メインストリームが「GeForce 9400M」「GeForce 9300M GS」「GeForce 9200M GS」、バリューが「GeForce 9100M G」というもの。
何が複雑なのかというと、まず「9100M G」は"mGPU"、つまりこれはチップセット内蔵GPUなのだ。
GeForce 9100M G(mGPU)の仕様モデル | GeForce 9100M G |
---|---|
コア数(SP数) | 8 |
コアクロック(MHz) | 450 |
シェーダクロック(MHz) | 1100 |
メモリクロック(MHz) | 400 |
最大メモリ容量(MB) | 256 |
メモリ接続幅(bit) | 128 |
メモリ帯域(GB/sec) | 12.8 |
テクスチャフィルレート(billion/sec) | 3.6 |
FLOPs(billion/sec) | 26.4 |
続いて、「9400M」というのは単体GPUのモデル名ではなく、チップセット内蔵の9100M Gに、外付けの9300M GSまたは9200M GSを追加したマルチGPU構成の"ブランド名"となっている。
GeForce 9400Mの構成内蔵GPU | 外付けGPU | 組み合わせた際のブランド |
---|---|---|
GeForce 9100M G | GeForce 9300M GS | GeForce 9400M |
GeForce 9100M G | GeForce 9200M GS | GeForce 9400M |
というのも、「9100M G+9300M GS/9200M GSの構成が、外付けGPUでいえば9400Mに相当するから」というのが理由だそうだ。
しかしながら、NVIDIAの当日のプレゼンでは、「GeForce 9400M」としてコア数や各動作クロックなどの単一の仕様が公開されており、これが上記組み合わせのどのパターンにも完全には一致しない。また、外付け側に仕様の異なる2種類のGPUを選べるのに、仕様が1種類というのも変な話だ。聞き忘れてしまったので追って確認をするつもりだが、マルチGPU構成の"ブランド名"ではなく、単体の「GeForce 9400M」もラインナップする可能性があるのかもしれない。
公開されたGeForce 9400Mの仕様モデル | GeForce 9400M |
---|---|
コア数(SP数) | 16 |
コアクロック(MHz) | 580 |
シェーダクロック(MHz) | 1450 |
メモリクロック(MHz) | 700 |
最大メモリ容量(MB) | 768 |
メモリ接続幅(bit) | 128 |
メモリ帯域(GB/sec) | 24 |
テクスチャフィルレート(billion/sec) | 8 |
FLOPs(billion/sec) | 61 |
改めて、GeForce 9Mシリーズの外付けGPUの主な仕様比較を一覧表で掲載しておく。
モデル | GeForce 9600M GT | GeForce 9600M GS | GeForce 9500M G | GeForce 9300M GS | GeForce 9200M GS |
---|---|---|---|---|---|
コア数(SP数) | 32 | 32 | 18 | 8 | 8 |
コアクロック(MHz) | 500 | 430 | 500 | 580 | 530 |
シェーダクロック(MHz) | 1250 | 1075 | 1250 | 1450 | 1300 |
メモリクロック(MHz) | 800 | 800 | 800 | 700 | 700 |
最大メモリ容量(MB) | 1024 | 1024 | 1024 | 512 | 512 |
メモリ接続幅(bit) | 128 | 128 | 128 | 64 | 64 |
メモリ帯域(GB/sec) | 25.8 | 25.8 | 25.8 | 11.2 | 11.2 |
テクスチャフィルレート(billion/sec) | 8 | 8.8 | 8 | 4.8 | 4.2 |
FLOPs(billion/sec) | 120 | 103 | 60 | 34.8 | 31.2 |
以上が今回説明のあったラインナップの全てだが、同社公式サイトでは他にも「GeForce 9650M GS」というモデルも公開されている。9600M GTと比べるとコアクロックが500MHzから625MHzへアップ、しかし最大メモリが1024MBから512MBへダウン、といったところが主な違いなようで、こちらは9600M系の派生GPUと考えられる。また、同社のこれまでの製品ラインナップの法則から予想すれば、上位にデスクトップ向けでいう9800相当のモデルが追加される可能性も高いだろう。
各社の展示機も紹介しておこう。まずはASUSのGeForce 9300M搭載ノート。Intelプラットフォームだそうだ |
MSIの「GX-630」。GeForce 9100M G+GeForce 9600M GTという構成 |
そのAcerのノート。自由に触れたので少し見てみた。そこで確認した「AMD Turion Ultra Dual-Core Mobile ZM-84」というCPUネームは、AMDの次世代モバイルプラットフォーム「Puma」で採用されるTurion X2 Ultraのことだろうと思われるが、詳細は不明 |
さて、Geforce 9MシリーズのHybrid SLIについてだが、大きなトピックがある。デスクトップ向けのHybrid SLIでは、利用可能な構成が「NVIDIA製グラフィックス統合チップセット+NVIDIA製外付けGPU」に限定されていたのだが、Geforce 9MシリーズではIntel製の統合チップセット(Montevina世代)と組み合わせた場合でもこれが利用できるようになった。
といっても、Intel製チップセットでHybrid SLIのフル機能をサポートするというわけではなく、利用できるのは「HybridPower」モードのみとなる。それぞれのGPUの違いを考えれば仕方ないが、強力な外付けGPUを搭載しながら、バッテリライフを延長できる機能は特にモバイルでは重要だろう。
GeForce 9100M G mGPUにGeForce 9Mシリーズの外付けGPUを組み合わせた構成では、GeForce Boostも含めたHybrid SLIのフル機能を当然サポートする。なお、GeForce 9100M G mGPUは、現時点ではAMDプラットフォーム向けにのみ提供される。ちなみに、AMD製チップセットでは「CrossFireなので」、Hybrid SLIは非サポートだ。
左がゲーム、右が対応する通常アプリ利用時の対応表。"GeForce on Intel"はIntelチップセットでGeForce 9Mシリーズを利用した場合で、"GeForce on GeForce"はチップセットもGeForceの場合 |
プレス説明会ではGeForce 9Mシリーズについて、搭載実機を用いてのデモンストレーションを絡めながら「CUDA」や「PhysXエンジン」を使ったGPU演算によるアプリケーションの高速化の内容も紹介された。今回のGPUのリリースにあわせてオンタイムで、となるかどうかは微妙だが、Elemental Technologies製のエンコードエンジン「RapiHD」を用いた動画エンコードや、「Adobe PhotoShop CS」での画像補正の処理なども実際に披露していたので、このあたりは近日中により具体的な発表があるものだと考えられる。
CUDA版のPhysXエンジンでひらひらと動く布の物理演算を行っているデモ。これがリリースされれば、CUDA対応世代のGeForceであればドライバアップデートによってPhysXに対応できるようになる |