マルセイユのユニテダビタシオンに宿泊した後、再びパリ市内へ戻ると、その日はもう日が暮れていた。しかし、じっとしてもいられないので、パリの夜景を見ようと凱旋門(1836年)へと向かった。この凱旋門を中心に、シャンゼリゼ通りをはじめ12本の通りが放射状に延びており、この古き建築は街の流れも変えたよう。そして変わり続けるパリの景色を屋上から眺めることができる。フランスには日々、魅力的な建築が生まれて共鳴しているように感じた。

凱旋門の屋上からはパリ市内のあらゆる建築を一望することができる

翌日から中2日は所用でドイツに行っていたが、パリ市内へ戻ってきて改めてフランスは名建築の宝庫だと再確認。また建築巡りのスイッチが入る。ドイツから4時間の長旅にも負けず、パリ市内のリヨン駅に戻るとすぐに歩き出した。「オモニ・スポーツセンター」(1984年)などを途中見ながら向かったのは、ベルシー公園内にある「シネマテーク」(1994年、旧アメリカンセンター)だ。

「オムニ・スポーツセンター」

シネマテークは、筆者がテレビで見てから1度は実物を見てみたいと思っていた建築家、フランク・ゲーリーの設計。やっぱり実物はすごい。筆者は建築好きの夫と結婚するまでは建築に関心もなく、学校や会社などこれまで特に箱型の建物しか関わりがなかったので、DVDでフランク・ゲーリーの建築を見た時はその自由なカーブなど独特のデザインに衝撃を受けて心惹かれてしまった。最近ではティファニーのアクセサリーをデザインするなど、女性が魅了される柔らかい印象かもしれない。フランク・ゲーリーはアメリカの建築家だが、家族でパリに移り住んでいたこともあるといい、フランスの建築に魅了された1人なようだ。

筆者が1番大好きな建築家、フランク・ゲーリー設計の「シネマテーク」。自由な構造が筆者の建築に対する常識を打ち砕いてくれた

ここまで来たなら、川を挟んで目の前の「国立図書館」(1994年、フランスの建築家・ドミニク・ペロー設計)に行かないわけにいかない。橋の先に見えるL字型の4つの棟。知識が詰まった凄みがある。いざ入るために長いエスカレーターでエントランスのある地下へ降りていく。図書館を目指している時は見えなかったが、4つの棟は地下2階になっていて、中央には"森林"があり驚いた。緑を囲むように閲覧室があり、日常から隔離された中でどっぷりと勉強や読書に集中することができそうな空間だ。

本を開いて立てたような4棟からなる「国立図書館」。中央には緑豊かな中庭があり、その周囲には閲覧室がある。こんな図書館で勉強できたら……

旅の8日目は、ショッピングも含めてパリ市内を堪能。オルセー美術館やピカソ美術館などを巡り、街並みを眺めながら歩き回った。エッフェル塔(1889年)へ行くと、4本足で塔を支えている姿は、パリの人たちのように背筋のピンと伸びた優雅な佇まいで一見の価値があった。ちょうど20:00過ぎにライトアップが始まり、フランスでの夜最後の素敵な思い出となった。

ついカメラを向けたくなるようなパリの街並み。フランスに魅力的な建築が多い理由が分かる

本の脚で優雅にパリに立つ「エッフェル塔」の姿はパリコレのモデルさながら?!ある時間になってギラギラと輝いた時は、パリの街をお立ち台に踊り出したようだった。世界中の観光客を魅了するだけある存在感だ。下からも覗いてみた

8泊9日の旅行も最終日。午後には飛行機に乗って帰国となった。午前中は追い込みをかけて、最後の締めくくりとして2006年6月にオープンした「ケー・ブランリー美術館」へ向かう。計画はしていなかったが、最後にパリにまだあるジャン・ヌーベルの建築を見たかったのだ。旅疲れと膨らんだスーツケースが重くのしかかっていたが、美術館に到着して一気に疲れが飛んだ。エントランス横に垂直の外壁一面を緑が覆う建物に目を奪われた。

この緑の壁の作者は、壁面緑化の技法で特許も取得しているフランスのパトリック・ブランだという。健康に害を及ぼす可能性のある有害物質を、植物に吸収させるという壁の建築らしい。美術館と歩道の境界にはガラスの壁があるのだが、そこに美術館の周囲に植栽されている様々な緑が映り込んでいるのも素敵な発想だった。建物全体は大きな飛行船が浮かぶようにピロティがあり、ジャン・ヌーヴェルの特徴であるガラスも巧みに使われている。色合いは同美術館がアフリカ、アジア、オセアニア、アメリカ大陸の固有の文明・文化・芸術を扱っているだけに、土の色や深い緑色など色濃い自然の雰囲気を醸し出しているように見えた。

2006年6月にオープンしたばかりのジャン・ヌーヴェル設計の「ケー・ブランリー美術館」。全体的に奇抜なデザインだが、ジャン・ヌーヴェルの特徴でもあるガラスと、これからさらに増殖されるという植物によって自然の優しさも漂っている

美術館と一体化したパトリック・ブランによる「緑の壁」にも度肝を抜かれる。美術館と歩道の間にあるガラスの壁も緑を反射している。パリの街の真ん中で大きく息を吸い込みたくなる

疲労とは裏腹に、まだまだ建築を見たいという気持ちになっていた筆者。言葉が分からないながらも目にした建築は、世界共通言語のように筆者にも魅力が伝わってきた。もちろん開館時間や交通等の理由から、テーマを「建築」に絞ってもすべて回りきれるものではなかった。また建築中な施設もあり、日本人建築家がフランスでどんな建築を表現するかにも興味がある。また何年後かに魅力を増したフランスを訪れ、"建築のフルコース"を味わってみたい。