ウィルコム代表取締役社長の喜久川政樹氏

ウィルコムの事業戦略、最新の技術、製品、ソリューションなどを広く紹介する「WILLCOM FORUM & EXPO 2008」が27・28日の2日間開催された。初日の基調講演には喜久川政樹社長が登壇し、「WILLCOM to the Next. ~ウィルコムの提案するワイヤレス・ブロードバンドの世界~」の表題で、既存の携帯電話とは一線を画す「もう一つの未来」を提唱した。

電気通信はこれまで日本経済の牽引車のひとつとなってきたが、喜久川社長は、携帯電話は契約者こそ伸びているものの、売上高は伸び悩み始めていることを指摘し、固定通信も含め「日本の電気通信市場は踊り場にさしかかっている」と語る。また、日本の携帯電話端末メーカー全社(ソニー・エリクソン除く)のシェアを合わせても、世界市場では10%にも満たないことから「国際競争力が失われている」とする。さらに、IT化が進行する中、地域間の情報格差は是正されず、情報発信量の比率でみると「東京に一極集中している」(喜久川社長)。

このような閉塞感の漂う市場に対し、同社は「飽和していく市場のなかでも成長できる商品の投入」「世界をターゲットにしたオープンプラットフォーム」「デジタルディバイド解消への寄与」「新たなブロードバンド市場の開拓」の4つを柱とする取り組みを、対策として提示する。

「飽和していく市場のなかでも成長できる商品の投入」では、すでに発表されているスマートフォンの「WILLCOM 03」やウルトラモバイルPCの「WILLCOM D4」があるが、「世界をターゲットにしたオープンプラットフォーム」の一環としては、中国版のW-SIM試作機が挙げられた。「W-SIMの海外用インタフェースを中国網通と共同開発した。海外のベンダーがGSM版のW-SIMを開発中で、すでに試作機レベルで動作する状態だ。他のシステムへの対応版を開発しようという動きもある」という。喜久川氏は「W-SIMの流れで、世界に通用するものをつくっていきたい」と話す。

「デジタルディバイド解消への寄与」としては、山形県新庄市本合海地区での高度化PHS(W-OAM)によるモバイル情報通信基盤を構築した事例を挙げた。この地区では、ADSLの通信環境が整備されていなかったことから、地元の中学校では、パソコンが配備されていても十分にインターネットを利用することができなかった。2007年7月に、山形県、新庄市などから、高度化PHSでのモバイル情報通信環境の整備、サービス提供の要望を受けた同社は、半径約4~5kmをエリアカバーすることができる30m鉄塔基地局を設置、2008年2月から本格サービスを開始している。

「新たなブロードバンド市場の開拓」については、先日発表された次世代PHSサービス「WILLCOM CORE」が核となる。伝送速度は上り/下りとも最大で100Mbpsとなり、時速300km以上で移動している場合でも通信でき、都心部でも実効速度が落ちにくい安定性が実現できるとされている。喜久川社長は「WILLCOM COREは、AIR-EDGEやWILLCOM 03の進化形であり、現在AIR-EDGEユーザーの2~3割は家庭でしか利用していない。家庭でも無線アクセスが好まれており、WILLCOM COREはADSLやFTTHに次ぐ、第3のアクセス網となる」との見解を示した。

WILLCOM COREはさらに新しい領域への展開の起爆剤としても期待されている。WILLCOM COREのネットワークを基盤に、W-SIMをパソコン、スマートフォン、ハンディ・ターミナル、テレビ、ゲーム機、カーナビなど多様な機器につなぎ「コンシューマ向けのベンダー、あるいはビジネス系の企業と組み、自由にインフラを活用するモデルが考えられる」として、W-SIMを媒介としたエコシステムの構築を目指す。

「新しい領域」のうち、商用化への検討が動き出しているのはカメラを利用したソリューションだ。同社が誇る16万の基地局を機軸に、定点カメラや、気象情報の収集、二酸化炭素濃度の計量などを担うセンサーのネットワークを構築し、道路の渋滞情報や観光地の情報をカーナビに提供するなどのビジネスのほか、防犯、防災、環境監視といった公共の目的のためにも活用する。同社では、この分野のネットワーク活用を考える「定点カメラ・センシングネットワーク研究会」の設立を準備しており、NTTコミュニケーションズ、シャープ、インテル、NEC、日立製作所、三菱電機、マイクロソフトなど31社が賛同を表明しているという。

先週、中国では四川大地震が発生したが、喜久川社長は、中国電信がサービス提供するPHSが今回の地震発生後も速やかに復旧し、被災地の緊急連絡手段として活用されていると報道されていることなどに言及。「災害時の通信手段としては、固定網とPHSが強い。つながりやすさが中国でもあらためて実証された。PHSは単なる商用インフラではなく、災害時の通信インフラとして実力を発揮できる。WILLCOM COREやマイクロセルも、そんな事態に役立てばよい」と述べた。最後に喜久川社長は「次世代に向け、もう一つの未来に走り出す。携帯電話とは異なる方向に走っていきたい」と語り、PHS独自路線を貫く姿勢を強調した。