MicrosoftとYahoo!の戦いの行方は? Icahn氏の狙いはどこに?

Microsoft側ではYahoo!の完全買収の可能性を否定しているが、Icahn氏の最終目標はYahoo!をMicrosoftに買収させることにある。委任状争奪戦でYahoo!役員全員の置き換えを狙うのはそのためで、その後にMicrosoftに買収を持ちかけるものだと考えられる。ここでの同氏の狙いの本質を予想してみよう。これまでの経緯からみて、Icahn氏は2段階でこのシチュエーションのメリットを享受しようとするだろう。

  1. MicrosoftによるYahoo!買収で、株式売却による利ざやを稼ぐ
  2. 交換条件でMicrosoftの経営の一部に食い込む

Icahn氏はMicrosoftの買収提案撤回後のYahoo!株価暴落などのタイミングを見計らって底値で株式を拾い集めていたと予想され、もし1株あたり31ドル以上でのMicrosoftによるYahoo!買収が成立すれば30%近いリターンが同氏の手元に入るだろう。もしMicrosoftがキャッシュだけでなく株式交換の手法も使った場合、好条件でMicrosoft株を取得できる。また委任状争奪戦でIcahn氏ら関連メンバーがYahoo!役員となり経営権を握った場合、同社売却の条件としてMicrosoftに何らかの見返りを要求する可能性もある。キャッシュ等による直接的なリターンも考えられるが、取得株数の少なさから考えてメリットはそこまで大きくないだろう。むしろ経営権を握っているメリットを活かし、Microsoftの経営の一部に食い込みを狙うかもしれない。IT業界の優等生であるMicrosoftだが、その実態は安定性の高い主力事業でネット事業等の他の赤字をカバーしている状態だ。Googleとの競合を目指してYahoo!獲得を狙うMicrosoftのウィークポイントを突いて、Icahn氏が台頭してくる可能性もある。

一方でMicrosoftの本心を言えば、やはり「Yahoo!全体を買収したい」ところだろう。検索広告事業のみの買収というが、Yahoo!が主力事業を分離する可能性は低く、Microsoftが期待するほどの効果が出ないことも考えられる。かといって強引な買収手法はYahoo!社員の離反を招き、経営陣らの姿勢を硬化させてしまうため、現状で折衷案を探るしかない状態だ。ここにIcahn氏が出現してしまったことが事態をより複雑にしてしまったといえる。Icahn氏には企業にとって前述のような危険性があるため、"余計な付録"のついたYahoo!はほしくないというのがMicrosoftの本音ではないか。

Yahoo!株主らの反応はどうか。現在Yahoo!株価は1株28ドル弱の水準で推移しており、比較的高値圏にあるといえる。最近取引に参加した株主の多くはMicrosoftによるYahoo!買収を期待しての買いであり、Icahn氏に同調し、委任状争奪戦で同氏に議決権を渡す者が多数を占めることになるだろう。すでにIcahn氏への賛同を表明しているYahoo!株主の中に、T. Boone Pickensという人物がいる。Pickens氏はグリーンメーラーとしてIcahn氏とともに1980年代に株式市場で暴れ回った人物で、1990年前後にはトヨタ自動車系列の小糸製作所に潜り込み、経営権獲得を目指したことで日本を騒がせた。最終的に数々の要求はトヨタ側にはね除けられたものの、グリーンメーラーの存在を広く知らしめる結果となった。その意図は小糸製作所株のトヨタへの高値売却であったと言われている。今回のPickens氏の狙いは明らかで、Microsoftへの株式売却による利ざや稼ぎだろう。

今後の展開を予想すれば、Yahoo!経営陣が委任状争奪戦でIcahn氏らに勝てる可能性は低いとみられる。その場合MicrosoftはYahoo!買収に動くが、Icahn氏らの追加要求ははね除けた状態で1株あたり31ドル、あるいはそれ以上の金額ですべての取引を手仕舞いしようとするだろう。Microsoftの現在のYahoo!との交渉は経営陣への救済であると同時に、Icahn氏の影響力を排除するための最後通告でもある。態度を硬化させるYahoo!経営陣だが、残された最後の道は株主総会までの残り2ヶ月間でMicrosoftからいかに折衷案か好条件を引き出せるかにある。