一進一退が続くMicrosoftとYahoo!の買収攻防だが、5月3日(現地時間)にMicrosoftが1株31ドルでの買収提案を撤回した後、同15日には投資家のCarl Icahn氏がYahoo!の新役員候補10名の名簿を持って委任状争奪戦(Proxy Fight)への参加を表明、事態は新局面を迎えつつある。Icahn氏は委任状争奪戦のためにYahoo!株のわずか4%弱を取得したに過ぎないが、委任状争奪戦を勝ち抜くのに十分な他の株主らの賛同を得られると自信を見せる。同氏の最終目標は、Yahoo!の役員総入れ替え後のMicrosoftへの同社売却だ。

ここで疑問に思うのは、Icahn氏とはどのような人物で、なぜこうした状況での戦いに強い自信を見せているのかという点だ。今回は同氏のバックグラウンドを探りつつ、その狙いをみていこう。MicrosoftとYahoo!の戦いにどのような結末が待ちかまえているかがわかるはずだ。

「企業乗っ取り屋」としてその名を轟かせた投資家

「投資家」という言葉で示される人物にはさまざまな人種がいる。成長中の企業や名もなき企業に資金を提供し、ともに成長を目指すケースもあれば、不調の企業に資金的援助を行って救済するケースもある。あるいは株式や債券など、定期的あるいは長期的視点に立って市場で取引するタイプの投資家もいるだろう。最近ではネット技術の発達でリアルタイム取引も容易となり、日々の売買で利ざやを稼ぐ「デイトレーダー」と呼ばれる人種も登場してきた。だが一方で、仕手のような手法で市場操作を行って利ざやを稼いだりするケースや、議決権や持ち株数を盾に株式の高額買い取りを要求するような"望まれない株主"である「グリーンメーラー」として活動する者たちもいる。

Icahn氏の行動パターンを一言で表現するならば、むしろ後者に属するタイプだろう。一般に「ボロ株」と呼ばれるような市場で株価が低迷する会社の株式を買い集め、議決権が行使できるような水準に達した段階で当該企業の経営陣に対して矢継ぎ早に要求を行う。要求は自社株買いによる株価の引き上げである場合もあれば、不採算部門の整理統合や売却、業務改善を要求する場合もあるし、あるいは自身の息のかかった人物たちを当該企業の役員に就任させ、自身も経営者の1人として中枢に入り込むなどさまざまだ。だが短期の利ざや稼ぎを狙う他の一般的なグリーンメーラーと同氏が大きく異なるのは、その狙いが「企業の中枢に入り込み、会社の経営権を握ること」にある点だ。

同氏は雑誌のインタビュー等で「チャンスさえあればあらゆる企業の経営権を握りたい」という趣旨の発言を繰り返しており、こうしたチャンスのある企業の株は決して離さないとも述べている。手がけた業界も幅広く、エネルギー、鉄道、航空、食品、レジャー、カジノ、通信、ITまで多岐にわたる。その多くで現在も経営陣の一角として収まっており、「物言う株主(Shareholder Activist)」として知られると同時に、「企業乗っ取り屋(Corporate Raider)」という異名を持つまでに至った。