さまざまな手法を用い昭和30年代の東京に暮らす人々を描いた『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)と続編である『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)。両作品のVFX(視覚効果)も担当した映画監督・山崎貴が劇中で用いた撮影の手法などを語った。
山崎貴 プロフィール1964年生。長野県出身。『スター・ウォーズ』(1977年)、『未知との遭遇』(1977年)といったSF映画に影響を受け、特撮クリエイターを目指す。阿佐ヶ谷美術学校卒業後、CGプロダクション白組に入社。『マルサの女』(1987年)、『スウィート・ホーム』(1989年)など多くの日本映画にSFX(特殊効果)アドバイザーとして参加。『ジュブナイル』(2000年)で映画監督デビューし、日本では馴染みの薄かったVFX(視覚効果)という映画用語を定着させた。続いて『リターナー』(2002年)を監督。『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)で、第29回日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞など、最多12部門を受賞。続編である、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)も監督。自身の全ての作品で監督だけでなく、共同脚本とVFX(視覚効果)を兼任している |
――『ALWAYS 続・三丁目の夕日』のオープニングでコンピュータグラフィック(以下CG)のゴジラが登場しますね。
山崎貴(以下、山崎)「もし自分がゴジラの映画を撮るとしたら、絶対昭和の街でやろうと思っていました。ゴジラが昭和の街をめちゃめちゃに壊すシーンを撮ろうと。高倉健がやくざ映画の中で一番輝くように、ゴジラは昭和の街に登場してこそ一番輝くと思うんですよ。そういう意味ではゴジラのシーンを撮れるということが、続編を作ると決まったときのモチベーションのかなり大きな部分を占めていました。あれは楽しかったですね(笑)」
――セットでの撮影やロケ、ミニチュアを使ったり、もちろんCGを使ったりと映像表現の手法はいろいろあると思いますが、具体的にはどの段階で決めるのでしょうか?
山崎「かなり早い段階ですね。プレビジュアライゼーションというものをラフなCGで作ります。『カメラワークはこうですよ』、『こういうのが出てきますよ』、といった映像をCGで作ってスタッフに見せます。つまり、どういう方法でどういうシーンを撮るのか、ここまでは実写でぜひ撮りたいとか、ここからはミニチュアを使って、ここはCGを使うなどというプランを説明するわけです。それをスタッフみんなに説明し、スタッフのいろんな意見を聞いた上で決めていきます」
――そのプレビジュアライゼレーションの制作は監督の個人作業ですか?
山崎「はい、完全に僕の個人作業です。それはもう本当に、下手すると家のMacで作業をやったりしています。」
――そういうアプローチができるというのは、監督ご自身がやはりVFXご出身で、そういう技法をすでに知っているからこそ、最初に準備ができてしまうということですね。
山崎「そうですね、それは僕の武器だと思います。おそらくその説明の段階で当然これなら可能とか、これならちょっと大変だけどなんとかなるかもしれないとか、そういう計算を全部立てながらやっていくので、とても効率的なはずなんですよ。普通だと、監督の作りたいシーンがあって、それに対してVFXスタッフや、スーパーバイザーのスタッフと話し合う中で、『それはできる』、『これはできないです』という話し合いをすると思うんです。ただ、難易度の高い作業でも、自分たちがどうすれば良いのかがわかっているので、挑戦して入れてみたりできます。そのためいろんな意味で効率的な作業ができるのではないかと思います」
――前作の『ALWAYS三丁目の夕日』を撮ると決めたとき、最初に思い浮かべたのはどんなシーンでしたか?
山崎「そもそも、本作の企画者であるROBOTの阿部さんが、建設中の東京タワーを見てみたいと言うところから、前作では東京タワーが出てきたんです。『東京タワー、東京タワー』って、ずっと言っていましたから(笑)。企画の段階で、『この映画は東京タワーが出来上がっていく一連の物語で、その下で繰り広げられる物語なんだ』ということをものすごく言ったんですよ。だから最初に思い描いたのは、オープニングに出てくる大通りの向こう側に、建設中の東京タワーが見えているという、あの絵ですね。すごく良く知っているものが建設中の風景って、惹かれるじゃないですか」
――建設中の東京タワーを撮ろうと思ったとき、撮影プランもすでに監督の中にあったのですか?
山崎「それはもう瞬時に、画面をどこまでどうやって撮るというのは全部出てきますね。イメージがあり、その手法も同時に頭の中でシミュレートできていました。ただ、最初はCGだけでやったほうがいいのかと思ったのですが、いろいろ考えたら、映画を見せたいお客様はCGが苦手な人たちじゃないかと思ったんです。だからCGの匂いをどれだけ消していくかという事が勝負でした。それにいろんな映画を見ていて、VFXがうまくいってない作品は地面が映っていないことが多いんですよ。CGの地面と役者さんの足の接地面を自然に見せるのはすごく大変なんです。そういう事もあるので、とにかく地面は実物をつくりました。だから制作部スタッフには、『地面を作りたいから、広くて舗装されている場所を探してくれ』と頼みました。地面と歩道さえあればいろんなシーンができますから、とにかく地面と歩道だけは実物を作ろうと決めていたんです。そういう話し合いをしながらだんだん、どういうやり方・撮り方をしたら一番いいのかということを自分の中で考え、CG・VFXの精度をあげていきました。」