イームズと言えばまっさきに椅子を思い起こす方が多いだろう。チャールズ・イームズとその妻、レイ・イームズのふたりは、デザインの世界にあって、とりわけ家具をはじめとするインダストリアル・デザインの分野で大きく貢献した20世紀を代表する米国のデザイナーだ。デザインの分野で大きな功績を残したイームズ夫妻だが、家具だけでなく、建築、映像、グラフィックなどの分野でも足跡を残している。その多彩な活動の中で、近年、チャールズ自らが撮影した75万点にも及ぶ膨大な写真コレクション(米国議会図書館所蔵)の存在に注目が集まっている。
そうした中、チャールズ・イームズの生誕100周年を記念し、この写真コレクションの中からイームズ・オフィスがセレクトした100点を紹介する初の写真展が、イームズ・ギャラリー(米国・サンタモニカ)をはじめ、オーストラリア、インド、北京など、世界中を巡回している。日本においては、『チャールズ・イームズ写真展 100 images×100 words ─偉大なるデザイナーのメッセージ』が、東京・六本木のアクシスギャラリーにおいて開催されている。開催期間は6月8日まで。
本展の大きな特徴は、本邦初公開となるチャールズ・イームズの100点の写真とともに、彼が講演や論文などに残した100の言葉(引用句)を紹介している点。この構成は日本独自の演出であり、100の言葉はイームズ・オフィスが制作した『チャールズ・イームズの100の名言』(本展限定ブック)に収められている。
100点の写真には少なからず日本で撮影されたと思われるショットが見られたり、日本のものと思われるコレクションがあったりと、イームズが日本に大いに興味を示していた事が見て取れる。また、ローアングルの写真が見受けられ、人の足や椅子の足などを中心にした作品からは、チャールズが人のパーツである足と深く関わり合いのある椅子に注目していた事も感じられる。そこから理解できるのは、彼が写真を単純に記録するためのものとして使っていたのではなく、デザインを行なう上で、その過程として写真を活用していた事。ファインダーを通したデザイナーの視線の先には、歴史に刻まれる偉大なデザインが見えていたのかもしれない。
また本展の素晴らしさは写真だけでなく、この100のメッセージにあると言っても過言ではないだろう。例えば、そこにはチャールズのデザイン(仕事)に対する真摯な考え方や態度を表した言葉がある。
予測ではなく、私の率直な希望を言おう。これからのデザインでは、デザイナーの顔が見えなくなるといい。
ありふれたものにも、格別な美しさがある。
誰もがわかっていても、改めて言葉にされて、心に刻む言葉もある。
目的に同意できない仕事は引き受けるべきではないし、別のことへの足がかりとして仕事をするべきでもない。これを守れば、自分の経験を存分に活かした仕事ができ、惨めな思いをすることもない。
そして、次の世代の人に対する言葉も。
子どもたちには、今すぐには何の役にもたたないような出来事やものも尊重するよう教えなければならない。これができないと、人間は次に来る事態を予測することができなくなってしまう。
学生には何よりも、変化する状況の中で自信を失わないことを学んでもらいたい。
自らの体験から学ぶことほど重要なことはない。
そして、この言葉はいまの時代にもマッチしつつ、実は本質的な考え方を示している。
情報の時代が終わったら、次は選択の時代である。
ここに挙げたのはごくわずかであり、実際に目にすれば、必ずピンとくる言葉があるはずだ。
なお、この100の言葉を収めた『チャールズ・イームズの100の名言』は、先着で来場者に配付された。国内で販売はされていないが、現在、出版元が販売を検討しているということだ。
また本展開催を記念し、さまざまなイベントが予定されている。詳細はこちらまで。
日程 | イベント名 | 内容 | 場所 |
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5月31日 | 「デザイナーの『眼』を語る--剣持勇とチャールズ・イームズの接点(仮)」 | 剣持デザイン研究所所長の松本哲夫氏とジャーナリストの藤崎圭一郎氏による対談 | アクシスギャラリー |
6月7日 | 「チャールズ&レイ・イームズ 16mmフィルム上映会」 | 目黒区美術館所蔵のイームズフィルムコレクションより『Powers of Ten』『House』などの著名な映像作品や、紹介される機会の少ないフィルムなど、8本を上映 | 目黒区民センターホール |
5月30日 | ハーマンミラー カフェライブ vol.4 | イームズ家具の空間でボサノヴァを楽しむ。出演アーティストはボサノヴァのユニット「naomi&goro」、アイリッシュハープとギターのユニット「tico moon」ら。 | ハーマンミラージャパン ショールーム(東京デザインセンター) |